酒蔵がIoTを導入すべき理由とは?各工程での活用例やメリット、導入ポイントを解説
デジタル技術が急速に進展した昨今、私たちの暮らしを取り巻く日常生活やビジネスのあらゆる場面で、大きな変革をもたらしていることは周知の事実です。
特に、IoT(Internet of Things)は、ビジネスの場面で、事業変革の有効な手段として注目を集めています。
IoTとは、従来インターネットに接続されていなかったさまざまな「モノ」をインターネットに接続する技術のこと。
酒蔵へのIoTの導入は、さまざまな醸造機器にセンサーやカメラ、無線通信を搭載して、酒造の各工程において、遠隔操作や監視などを行い、データ収集、解析、反映などにより高品質な日本酒醸造を実現させることを目的としています。
今回は、酒蔵のIoT導入に関して、導入すべき理由、各工程におけるIoT活用例やメリット、導入による経営上のメリットのほか、導入のコツや注意点までくわしく解説します。
- 1. 酒蔵がIoTを導入すべき理由
- 1.1. 熟練杜氏の減少で技術継承が難しくなっている
- 1.2. 温度管理や記録作業に時間と労力がかかっている
- 1.3. さらなる品質管理の向上を目指したい
- 1.4. 労働環境の改善や効率化が必要
- 2. 酒蔵の各工程におけるIoT活用例やメリット
- 2.1. 発酵状態をリアルタイムで把握できる
- 2.2. 麹室の温度と湿度を最適に保つことができる
- 2.3. 自動温度測定で24時間365日確認ができる
- 2.4. スマホやPCから遠隔で酒造りの状況を確認できる
- 2.5. データ分析で品質のばらつきを減らすことができる
- 3. 酒蔵のIoT導入による業務改善や経営的メリット
- 3.1. 作業時間が大幅に減り、他の業務に集中できる
- 3.2. 夜間や休日の見回りが減って働き方が改善する
- 3.3. 正確なデータを基に的確な判断ができるようになる
- 3.4. 人件費や光熱費の削減で経営が改善する
- 4. 酒蔵へのIoT導入を進めるコツ
- 4.1. 現状の課題を明確にして目標を決める
- 4.2. 自社に合ったIoTシステムを選ぶ
- 4.3. 少しずつ導入して改善を重ねていく
- 4.4. 自社に合ったIoTの活用術を工夫する
- 4.5. パートナーシップを活用する
- 5. 酒蔵のIoT導入時の注意点
- 5.1. 初期費用と運用費用を抑える
- 5.2. 従業員の不安を解消してスムーズに導入する
- 5.3. データの安全性を確保して情報漏洩を防ぐ
- 6. まとめ
酒蔵がIoTを導入すべき理由
酒蔵がIoTを導入すべき理由はさまざまです。
ここでは、酒蔵がIoTを導入すべき理由について解説します。
【酒蔵がIoTを導入すべき理由】
- 熟練杜氏の減少で技術継承が難しくなっている
- 温度管理や記録作業に時間と労力がかかっている
- さらなる品質管理の向上を目指したい
- 労働環境の改善や効率化が必要
熟練杜氏の減少で技術継承が難しくなっている
全国の酒蔵で、造りの担い手が減少しているといった現状があります。
熟練した杜氏が減り、酒造の伝統技術を次の世代に伝えていくことが難しくなっている今、IoTの導入が解決策の1つになるでしょう。
IoTの導入により、熟練杜氏をはじめとしたベテラン職人の経験や勘をデータとして記録し、ノウハウを可視化して、次世代の蔵人に伝えることが可能です。
また、IoTを教育ツールにすることにより、IoTデータを活用して、若手蔵人の教育やトレーニングに役立てることができます。
温度管理や記録作業に時間と労力がかかっている
酒造工程において重要な発酵の最適な環境づくりに際して、温度、湿度、ph値などの管理は重要です。
しかし、生きた微生物を相手にしているため、 24時間設定した管理が必要となり、時間と労力がかかっているというのも課題の1つ。
課題解決の1つの策として、IoTの導入により、遠隔監視や自動データ収集により、作業にかかる時間や労力を削減することが可能です。
さらなる品質管理の向上を目指したい
酒蔵にとって商品の質を上げることは、利益アップやブランディングにおいて必要不可欠であり、経営課題の1つ。
IoTを導入することにより、精密な温度管理が可能となり、収集したデータを分析することで、発酵プロセスの最適化や品質の一貫性を保つことができるため、さらなる品質管理の向上が期待できます。
労働環境の改善や効率化が必要
造りの担い手を確保し続けるためには、酒蔵の労働環境の整備も課題の1つです。
IoTを導入すれば、蔵人の作業環境の改善が期待できます。
夜間や休日の監視作業が減り、蔵人の負担が軽減され、リアルタイムでの監視により、異常が発生した際に迅速に対応できるため、安全性が向上するでしょう。
酒蔵の各工程におけるIoT活用例やメリット
具体的に酒蔵でIoTを導入することにより、どのようなメリットが期待できるのでしょうか。また酒造の各工程には、どのような活動事例があるのでしょうか。
ここでは、酒蔵の各工程におけるIoT活用例やメリットについて解説します。
【酒蔵がIoTを導入すべき理由】
- 発酵状態をリアルタイムで把握できる
- 麹室の温度と湿度を最適に保つことができる
- 自動温度測定で24時間365日確認ができる
- スマホやPCから遠隔で酒造りの状況を確認できる
- データ分析で品質のばらつきを減らすことができる
発酵状態をリアルタイムで把握できる
質の高い日本酒を造るには、いかに最適な発酵環境を整備し続けられるかです。
その点、IoTを導入すれば、IoTセンサーを使用して、発酵タンクの温度や湿度などを発酵状態をリアルタイムで遠隔監視し、把握することが可能です。
麹室の温度と湿度を最適に保つことができる
IoT技術を活用することで、麹室の温度と湿度を最適に保つことが可能です。
麹室に各種センサーを設置して、麹室内の温度や湿度をリアルタイムで測定し、データを収集します。
また、アラート機能を活用して、異常が検知された場合、スマートフォンやPCにアラートを送信することで、迅速な対応も可能です。
自動制御システムを導入すれば、収集されたデータに基づいて、温度や湿度を自動的に調整することができます。
たとえば、温度が設定範囲を超えた場合に冷却装置を作動させたり、湿度が低下した場合に加湿器を作動させたりするなどの制御が可能です。
自動温度測定で24時間365日確認ができる
IoTを導入すれば、自動で温度や湿度、ph値などの測定が可能になるので、24時間365日発酵環境など酒造りの状況の確認が可能です。
蔵人の温度管理や記録作業が大幅に効率化でき、労働環境の改善や品質の向上につながります。
スマホやPCから遠隔で酒造りの状況を確認できる
IoTを導入すれば、遠隔監視により、どこにいてもスマートフォンやPCから24時間365日酒造りの状況を確認することができます。
酒蔵に交代で泊まり込むこともなくなり、自動でデータの収集が可能なので、 業務の効率化が図れるでしょう。
空いた時間を、安全衛生管理の徹底や新商品の開発など他のコア業務に配分することが可能です。
データ分析で品質のばらつきを減らすことができる
IoTの導入により、データ分析ツールや機械学習アルゴリズムなどを活用することで、収集したデータを分析して、発酵プロセスや製造工程や製造条件の最適化を図ることが可能です。
また、統計的プロセス制御(SPC)やトレーサビリティ(商品の製造履歴の追跡)により、品質管理を強化し、品質のばらつきを減らし、品質の一貫性を保ち、高品質な商品を提供することができます。
酒蔵のIoT導入による業務改善や経営的メリット
酒蔵でIoTを導入することは、経営の観点から見てどのようなメリットがあるのでしょうか。
ここでは、酒蔵のIoT導入による業務改善や経営的メリットについて解説します。
【酒蔵のIoT導入による業務改善や経営的メリット】
- 作業時間が大幅に減り、他の業務に集中できる
- 夜間や休日の見回りが減って働き方が改善する
- 正確なデータを基に的確な判断ができるようになる
- 人件費や光熱費の削減で経営が改善する
作業時間が大幅に減り、他の業務に集中できる
酒蔵におけるIoTの導入は、作業時間の大幅な削減により、空いた時間を他の業務に集中できるといった効果をもたらします。
具体的には、IoTセンサーを使用して、麹室や発酵タンクの温度と湿度を自動的に監視・調整することで、手動での確認作業が不要になったり、手作業でのデータ記録が不要になり、リアルタイムでデータが収集・分析されるので、作業時間が大幅に削減できるのです。
さらに、リモートモニタリング機能を使えば、スマートフォンやPCを使って、遠隔地からでも発酵プロセスを監視できるため、現場に常駐する必要もなくなります。
IoTによる効率化で生まれた時間を、新商品の開発や試作、マーケティングや販売戦略の立案・実行など他の業務に充てることができるようになるでしょう。
経営の観点からもIoTの導入は、人的リソースの適材適所への配置が可能になり、経営の効率化につながります。
夜間や休日の見回りが減って働き方が改善する
IoT技術をフルに活用すれば、働き方の改善が期待できます。
リモートモニタリングにより遠隔監視が可能になり、スマートフォンやPCを使って、どこにいても24時間体制で発酵プロセスを監視できるため、現場に常駐する必要がなくなり、夜間や休日の見回りが減るでしょう。
IoTの導入により、労働環境の改善による社員の定着率の向上が期待でき、安定経営を図るための労働力の確保にもつながります。
正確なデータを基に的確な判断ができるようになる
IoTを導入することにより、正確なデータを収集することが可能です。
正確なデータを基に判断することで、酒蔵の運営や製造プロセスにおいて多くのメリットが期待できるでしょう。
たとえば、データを基に発酵プロセスを最適化することで、毎回同じ品質の日本酒を製造することができ、異常値が検出された場合、迅速に対応することで品質の低下を防ぎます。
また、リアルタイムでデータを取得・分析することで、迅速かつ的確な意思決定が可能になり、感覚や経験だけでなく、データに基づいた科学的な判断ができるようになるでしょう。
さらに、どの工程でどのようなデータが得られたかを追跡することで、問題が発生した際の原因究明が容易になり、製品の安全性や品質をデータで証明することで、消費者の信頼を得ることができます。
このように、正確なデータを基にした的確な判断は、酒蔵の運営や製造プロセスにおいて非常に重要です。
人件費や光熱費の削減で経営が改善する
酒蔵でIoTを導入することにより、コスト削減で経営が改善する効果も期待できます。
たとえば、データ分析により、必要なリソース(原材料、エネルギー、人員など)を最適に配分でき、無駄な工程や過剰なリソースの使用を削減することで、人件費や光熱費の削減などコストを抑えることも可能です。
酒蔵へのIoT導入を進めるコツ
酒蔵へのIoT導入はどのように進めたらよいのでしょうか。
ここでは、酒蔵へのIoT導入を進めるコツをいくつかご紹介しましょう。
【酒蔵へのIoT導入を進めるコツ】
- 現状の課題を明確にして目標を決める
- 自社に合ったIoTシステムを選ぶ
- 少しずつ導入して改善を重ねていく
- 自社に合ったIoTの活用術を工夫する
- パートナーシップを活用する
現状の課題を明確にして目標を決める
酒蔵へIoTを導入する際には、現状分析による課題の洗い出しと明確な目標設定が重要です。
たとえば、品質管理の向上、作業効率の改善、データの可視化など、具体的な目標を設定することで、自社に適したIoTシステムも決まってくるでしょう。
自社に合ったIoTシステムを選ぶ
酒蔵へのIoT導入を進めるコツで重要なことは、自社に合ったIoTシステムを選ぶことです。
たとえば、温度、湿度、CO2濃度など、必要なデータを取得するためのセンサーを選定したり、Wi-Fiやクラウドなど、データを効率的に収集・管理するための通信技術を選定したりといったことが重要です。
自社に合ったIoTシステムの選び方についてくわしく知りたい方は「酒造業向けシステムのおすすめの選び方とは?主な機能や導入するメリットを解説」をご覧ください。
少しずつ導入して改善を重ねていく
酒蔵へIoTを導入する際には、スモールスタートを心がけるといいでしょう。
まずは、一部の工程や設備にIoTを導入し、効果を確認して、成功したら徐々に拡大していく方法がリスクを抑えられておすすめです。
自社に合ったIoTの活用術を工夫する
酒蔵へIoTを導入する際に、自社に合ったIoTの活用を工夫することがコツの1つです。
たとえば、収集したデータをグラフやダッシュボードで可視化し、誰でも簡単に状況を把握できるようにしたり、IoT技術の基本的な使い方やデータの読み取り方を従業員に教育することにより、全員が新しいシステムを効果的に活用できるようにしたりするなど自社に適した効果的な方法を見つけていきましょう。
パートナーシップを活用する
酒蔵へIoTを導入する際には、パートナーシップを活用することも効果的です。
たとえば、IoT導入にくわしい専門家や企業と協力し、導入するシステムのアドバイスや、技術的なサポートを受けることで、スムーズな導入が可能になります。
酒蔵のIoT導入時の注意点
酒蔵にIoTを導入する際には、注意しなければならないことがいくつかあります。
ここでは、酒蔵のIoT導入時の注意点について解説しましょう。
【酒蔵のIoT導入時の注意点】
- 初期費用と運用費用を抑える
- 従業員の不安を解消してスムーズに導入する
- データの安全性を確保して情報漏洩を防ぐ
初期費用と運用費用を抑える
酒蔵にIoTを導入する際には、導入コストや運用コストに注意する必要があります。
初期費用と運用費用を抑えることが重要です。
たとえば、初期費用に関しては、複数社から相見積もりを取得したり、補助金を活用したりしてコストを抑えられるでしょう。
運用費用に関しても、自社に必要なシステムを選ぶ際に、運用費用がかかるのかどうかを見極めることも必要です。
たとえば、クラウド型のシステムを選択すると年額や月額で運用費用がかかるのに対して、オンプレミス型(自社運用)を選択すると、初期費用はかかりますが、運用費用がかからないなどの違いもあります。
従業員の不安を解消してスムーズに導入する
酒蔵にIoTを導入する際によくある事例として、「今までとやり方が変わって心配だ…」「うまくできるのか…」など、従業員から不安の声があがるということがあります。
酒蔵にIoTを導入するときに注意しなければならないのは、従業員の不安を解消して、スムーズに導入をすすめることです。
そのためには、どのようなシステムを導入するのか、システムを導入することにより業務フローがどのように変わるのか、担当する業務に変更はあるのかなどを明確にして、従業員に教育研修して周知徹底するなどの工夫をして情報共有しましょう。
データの安全性を確保して情報漏洩を防ぐ
酒蔵へのIoTの導入に関して、情報漏洩のリスクをなくすことにも尽力しなければなりません。
システムを導入することにより、データの収集や分析などメリットもある反面、クラウドなどインターネットにつなげてデータを管理するので、間違って情報を外部に漏洩してしまうリスクが常にある状況となります。
データの安全性を確保するための社内ルールを作成し、徹底することで情報漏洩のリスク軽減を図ることができるでしょう。
まとめ
ここまで、酒蔵のIoT導入に関して、導入すべき理由、各工程におけるIoT活用例やメリット、導入による経営上のメリットのほか、導入のコツや注意点などをご紹介させていただきました。
酒蔵の酒造各工程において、IoTを導入することにより、業務や経営においてさまざまなメリットがおわかりいただけたのではないでしょうか。
酒蔵でのIoTの導入は、メリットばかりでなく、導入コストがかかるなどのデメリットもあります。
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