日本酒を造る麹菌の奥深い世界とは?味わいを左右する役割と3つの種類、杜氏の育て方を紹介

「麹(こうじ)菌が日本酒の味を決める」
そんな一言に、どれほどの奥行きがあるかご存じでしょうか。
見えない微生物でありながら、香り、旨み、余韻までも左右する「麹菌」は、まさに酒造りの“縁の下の主役”。
その働きは、種類によっても、育て方によっても、まったく異なる表情を見せます。
今回は、日本酒を造る麹菌の奥深い世界について、麹菌の3つのタイプとそれぞれの特徴、そして杜氏たちがいかにして麹を育て、酒の個性を引き出しているのかを解説します。
伝統と技術、感性と経験が交差する麹の世界は、日本酒業界の奥深さを象徴する入り口。
「なぜこの酒はこんなにおいしいのか」
麹菌を知ることで、その答えが見えてくるかもしれません。
【この記事でわかること】
- 日本酒の麹菌とは、米のデンプンとタンパク質を分解して糖と旨味を生み出す、酒造りの要である
- 麹菌には、華やかな香りの「黄麹菌」、爽やかな酸味の「白麹菌」、強い酸とコクの「黒麹菌」の3つの種類がある
- 杜氏には、「菌糸の広がりと深さ」「破精の使い分け」「麹蓋による温湿度管理」を駆使し、酒質に応じた麹を仕上げる技術がある
- 1. 日本酒の「麹菌」とは?
- 1.1. 米のデンプンを糖(甘味)に変える
- 1.2. タンパク質をアミノ酸(旨味)に変える
- 1.3. 米から糖を生成する点がワインとの違い
- 2. 日本酒の個性を決める麹菌3種類と味の特徴
- 2.1. 黄麹菌は華やかな香りが特徴
- 2.2. 白麹菌は爽やかな酸味が特徴
- 2.3. 黒麹菌は強い酸とコクが特徴
- 3. 日本酒の麹菌を育てる杜氏の技術
- 3.1. 麹の品質は菌糸の広がりと深さで決まる
- 3.2. 麹の育ち方(破精)を酒質で使い分ける
- 3.3. 麹蓋は温度や湿度を細かく管理できる
- 3.4. 育ちすぎたバカ破精は雑味のもと
- 4. 日本酒の麹菌に関するよくある質問
- 4.1. 麹菌と酵母の役割はどう違うのですか?
- 4.2. 白麹菌の日本酒は酸っぱいのですか?
- 4.3. 麹菌で日本酒の香りも変わりますか?
- 5. 【まとめ】日本酒の麹菌を知れば日本酒がもっとおいしくなる
日本酒の「麹菌」とは?

日本酒の味や香り、旨みの土台をつくる存在、それが「麹菌」です。
微生物でありながら、酒造りの工程において中心的な役割を担い、杜氏の技と感性によってその力が引き出されます。
ここでは、日本酒の「麹菌」とはどのようなものかについて解説しましょう。
【日本酒の「麹菌」とは?】
- 米のデンプンを糖(甘味)に変える
- タンパク質をアミノ酸(旨味)に変える
- 米から糖を生成する点がワインとの違い
米のデンプンを糖(甘味)に変える
麹菌は、米に含まれるデンプンを分解し、糖(甘味)に変える酵素(アミラーゼ)を生成します。
この糖が、酵母によってアルコール発酵されることで日本酒が生まれるのです。
麹菌の働きが強いほど糖(甘味)の量が増え、甘みのある酒になります。
麹の育て方や温度管理によって酵素の量や活性が変わるため、杜氏の技術が酒の甘さを左右する重要なポイントとなるのです。
タンパク質をアミノ酸(旨味)に変える
麹菌は、米に含まれるタンパク質を分解し、旨味成分であるアミノ酸を生成するプロテアーゼという酵素も出します。
アミノ酸は日本酒のコクや複雑な味わいを生み出す要素であり、特に食中酒としての相性に影響する成分です。
麹菌の種類や育成環境によって、アミノ酸の種類や量が変わるため、酒の旨味の設計にも深く関わっています。
米から糖を生成する点がワインとの違い
日本酒は、麹菌によって米のデンプンを糖に変換する「糖化」と、酵母による「発酵」が同時に進む「並行複発酵」が特徴です。
一方、ワインは果物に含まれる糖を酵母が直接発酵させる「単発酵」です。
この違いが、製造工程の複雑さや味の多層性に影響します。
日本酒とワインの違いを簡単にまとめると以下の表のとおりです。
| 酒類 | 原料 | 糖化の必要性 | 発酵方式 |
| 日本酒 | 米(デンプン) | 必要(麹菌) | 並行複発酵 |
| ワイン | ブドウ(糖) | 不要 | 単発酵 |
この違いこそが、日本酒の繊細で奥深い味わいを生む理由の1つとなっています。
日本酒の個性を決める麹菌3種類と味の特徴

日本酒の味わいや香り、余韻の違いなどの背景には、麹菌の種類による繊細な働きがあります。
麹菌には、「黄(き)麹菌」「白(しろ)麹菌」「黒(くろ)麹菌」の3種類があり、それぞれが生み出す酵素の違いが、甘みや酸味、旨味のバランスに影響し、酒の個性を形づくっているのです。
麹菌の選定が日本酒の個性を決定するため、杜氏の技術と酒蔵の哲学を反映して慎重に行われる酒造りの重要な工程の1つとなっています。
ここでは、日本酒の個性を決める麹菌3種類と味の特徴について解説しましょう。
【日本酒の個性を決める麹菌3種類と味の特徴】
- 黄麹菌は華やかな香りが特徴
- 白麹菌は爽やかな酸味が特徴
- 黒麹菌は強い酸とコクが特徴
| 麹菌の種類 | 主な特徴 | 使用例 |
| 黄麹菌 | 華やかな香りと甘み | 吟醸酒・純米酒 |
| 白麹菌 | 爽やかな酸味 | 食中酒・新商品 |
| 黒麹菌 | 強い酸と深いコク | 焼酎・個性派酒 |
黄麹菌は華やかな香りが特徴
「黄麹菌」は、日本酒造りでもっとも一般的に使われる麹菌で、華やかな香りとまろやかな甘みを引き出すのが特徴です。
生成される酵素のバランスが良く、米の旨味を引き出しながら、フルーティーで繊細な香りを生み出します。
吟醸酒や純米酒など、香りを重視した酒に多く用いられ、杜氏の技術によって香味の幅が広がる麹菌です。
温度管理や麹室(こうじむろ=麹菌の繁殖に適した温度と湿度を一定に保つように作られた特別な部屋)での育成が繊細なため、扱いには高度な経験が求められます。
白麹菌は爽やかな酸味が特徴
「白麹菌」は、主に焼酎造りで使われてきましたが、近年では酸味を生かした日本酒にも活用されています。
クエン酸を多く生成するため、爽やかでシャープな酸味が加わり、食中酒としての相性が高まる麹菌です。
黄麹菌よりも扱いやすく、雑菌の繁殖を抑える効果もあるため、温暖な地域や新しい酒造りの挑戦に適しています。
軽快で飲みやすい味わいを求める蔵元に選ばれる傾向が強まっていることが特徴です。
黒麹菌は強い酸とコクが特徴
「黒麹菌」は、白麹菌の元となった菌で、より多くのクエン酸を生成するため、力強い酸味と深いコクが特徴です。
焼酎造りでは定番ですが、日本酒に使うと個性的で濃厚な味わいになります。
酸による防腐効果が高く、発酵を安定させる利点もある麹菌です。
日本酒の麹菌を育てる杜氏の技術

日本酒の味や香りを左右する麹菌は、ただ撒くだけではその力を発揮しません。
麹室の温度・湿度管理、米の蒸し加減、菌の繁殖具合を見極める繊細な判断など、それらすべてが杜氏の経験と感性に支えられています。
麹菌を“育てる”という工程には、科学と職人技が融合した奥深い世界が広がっているのです。
ここでは、日本酒の麹菌を育てる杜氏の技術について解説します。
【日本酒の麹菌を育てる杜氏の技術】
- 麹の品質は菌糸の広がりと深さで決まる
- 麹の育ち方(破精)を酒質で使い分ける
- 麹蓋は温度や湿度を細かく管理できる
- 育ちすぎたバカ破精は雑味のもと
麹の品質は菌糸の広がりと深さで決まる
麹菌は米の表面に付着して繁殖し、菌糸(きんし=菌の糸状の構造)を伸ばして米の内部に入り込みます。
この菌糸の「広がり」と「深さ」が麹の品質を左右するのです。
以下のように表で整理すると、麹菌の菌糸の「広がり」と「深さ」が酒質に与える影響が一目でわかります。
| 観点 | 状態 | 影響・特徴 | |
| 広がり | 十分 | 酵素が均一に分布し、糖化・旨味が安定する | |
| 深さ | 適切 | 米の芯まで分解が進み、酒の味に厚みが出る | |
| 浅すぎる | 酵素が不足し、糖化・旨味が不十分になる | ||
| 深すぎる | 過剰分解により雑味が出る可能性がある | ||
このように、麹菌の菌糸の状態は酒の品質に直結するため、杜氏は広がりと深さのバランスを見極めながら麹を育てているのです。
麹の育ち方(破精)を酒質で使い分ける
麹菌が米に繁殖していく過程を「破精(はぜ)」と呼びます。
破精には「総破精(そうはぜ)」と「突き破精(つきはぜ)」があり、まとめると以下の表のとおりです。
| 破精の種類 | 菌糸の広がり方 | 向いている酒質 | 特徴 |
| 総破精 | 米全体に菌糸が広がる | 軽快でスッキリした酒 | 酵素が均一に働き、味が安定しやすい |
| 突き破精 | 米の中心部に向かって深く入り込む | 濃厚でコクのある酒 | 芯まで分解が進み、複雑な味わいになる |
このように、破精のタイプによって麹の働き方が変わり、最終的な酒の味わいにも大きな違いが生まれます。
杜氏は狙う酒質に応じて破精の仕上がりを調整しているのです。
麹蓋は温度や湿度を細かく管理できる
麹蓋(こうじぶた)は、麹を育てる際に使われる浅い木箱で、1枚ずつ手作業で管理されます。
麹蓋を使うことで、麹の温度や湿度を細かく調整でき、菌の繁殖を理想的な状態に保つことが可能です。
麹菌は温度に敏感で、わずかな違いで酵素の生成量や種類が変わるため、麹蓋による個別管理は高品質な麹造りに欠かせません。
特に吟醸酒など繊細な酒造りでは、麹蓋による丁寧な育成が味の決め手になります。
育ちすぎたバカ破精は雑味のもと
麹菌が米に過剰に繁殖しすぎた状態を「バカ破精(ばかはぜ)」と呼びます。
これは菌糸が米の内部まで深く入り込みすぎて、必要以上に分解が進んだ状態です。
バカ破精になると、酵素が過剰に働いてしまい、糖やアミノ酸が過多になって雑味の原因になります。
麹の育成は時間との勝負であり、杜氏は麹の温度や湿度、菌糸の伸び具合を細かく観察しながら、最適なタイミングで麹を完成させるのです。
日本酒の麹菌に関するよくある質問

日本酒を造る麹菌の奥深い世界に触れると、もっともっと麹菌について知りたいと興味がわくことでしょう。
ここでは、日本酒の麹菌に関するよくある質問について解説します。
【日本酒の麹菌に関するよくある質問】
- 麹菌と酵母の役割はどう違うのですか?
- 白麹菌の日本酒は酸っぱいのですか?
- 麹菌で日本酒の香りも変わりますか?
麹菌と酵母の役割はどう違うのですか?
麹菌と酵母は、日本酒造りにおいてそれぞれ異なる役割を担っています。
「麹菌」の役割は、蒸した米に繁殖し、米のデンプンを糖に分解する酵素の生成です。
この工程を「糖化」と呼び、酒造りの第一段階です。
一方、「酵母」は、麹菌によって生まれた糖をアルコールと炭酸ガスに変える「発酵」を担います。
つまり、麹菌が“糖をつくる”役割、酵母が“アルコールをつくる”役割を果たしているのです。
両者の働きが連携することで、日本酒の香りや味わいが生まれます。
白麹菌の日本酒は酸っぱいのですか?
白麹菌を使った日本酒は、一般的に酸味が強く感じられる傾向があります。
これは白麹菌がクエン酸を多く生成する性質を持っているためで、爽やかでシャープな酸味が酒に加わるからです。
ただし、「酸っぱい」といってもレモンのような刺激的な酸味ではなく、食中酒として料理の味を引き立てるような心地よい酸味が感じられます。
酒の設計や発酵管理によって酸の強さやバランスは調整されるため、白麹菌を使った日本酒すべてが酸味主体というわけではありません。
白麹菌の日本酒は、酸味を生かした軽快な味わいが特徴です。
麹菌で日本酒の香りも変わりますか?
麹菌は、日本酒の香りにも大きな影響を与えます。
麹菌が生成する酵素は、米のデンプンやタンパク質を分解して糖やアミノ酸を生み出し、それらが酵母の働きによって香り成分へと変化する仕組みです。
たとえば、黄麹菌は酵母がフルーティーで華やかな香りを生成しやすい環境を整えるため、吟醸酒などに多く用いられる一方、白麹菌や黒麹菌はクエン酸の生成量が多く、酒に爽やかな酸味や深みを与える傾向があり、香りは控えめながらも味わいのバランスに寄与します。
なお、香りそのものは主に酵母の働きによって生まれるものであり、麹菌はその前段階として発酵環境や成分構成に影響を与える役割を担っていることも念頭に置いておきましょう。
つまり、麹菌の種類や育て方によって、日本酒の香りの個性が大きく変わるのです。
【まとめ】日本酒の麹菌を知れば日本酒がもっとおいしくなる

ここまで、日本酒の味を左右する「麹菌」について、麹菌とはどのようなものか、3種類の麹菌と味の特徴、麹菌を育てる杜氏の技術、麹菌に関するよくある質問などを解説してきました。
本記事のポイントは、以下のとおりです。
【本記事のポイント】
- 日本酒の麹菌は、米に含まれるデンプンやタンパク質を分解し、甘味や旨味のもととなる成分を生み出す、酒造りに欠かせない要素である
- 麹菌には、香り高い「黄麹菌」、爽やかな酸をもたらす「白麹菌」、力強い酸味と深いコクを生む「黒麹菌」の3種類がある
- 杜氏は、菌糸の伸び方や破精(はぜ)の種類、麹蓋を用いた緻密な温湿度調整などを駆使し、目指す酒質に最適な麹を育て上げる
- 麹菌は米を糖や旨味に分解する役割、酵母はその糖をアルコールに発酵させる役割を担う
- 白麹菌を使った日本酒は、クエン酸の生成により爽やかな酸味が感じられる傾向がある
- 麹菌の種類や働き方によって、酵母が生成する香り成分が変化し、日本酒の香りにも違いが生まれる
麹菌は日本酒の味や香りを左右する“見えない主役”であり、種類や育て方によって酒の個性が大きく変わります。
今回の記事を参考にして、麹菌の働きや種類を知ることで、日本酒の味わいの仕組みが理解でき、より深くおいしく楽しめるようになるでしょう。
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