酒蔵でのキャリアパスを徹底解説|杜氏や蔵人への道と仕事の魅力を深堀り

「キャリアパス」とは、企業などの組織において、キャリアを積むために必要なプロセスや道筋のこと。

目標とする職務や職位に到達するために必要なスキルや経験、工程などを、企業が社内に限ったキャリアを実現するための指針として提示するものです。

酒蔵では、どのようなキャリアパスがあるのか、杜氏や蔵人への道程はどのようなものか、酒造業への就業を志す人にとっては興味深いテーマの1つでしょう。

今回は、酒蔵でのキャリアパスについて、一般的なキャリアパスの事例や酒蔵のキャリアと給与の仕組み、必要な資格やスキル、魅力ややりがいなどについて解説します。

酒蔵での一般的なキャリアパス例

酒蔵では、一般的にどのようなキャリアパスが想定されるのでしょうか。

ここでは、酒蔵での一般的なキャリアパスの事例について解説します。

【酒蔵での一般的なキャリアパス例】

  • 新入社員は酒造りの現場で基本作業からスタート
  • 経験を積むと製造工程の一部を任されるように
  • 蔵人として技術を磨き杜氏を目指すことも可能

新入社員は酒造りの現場で基本作業からスタート

酒蔵には、「酒造り」、いわゆる「製造」部門以外にも、商品開発、営業、流通、総務、財務・経理、給与・労務、人事・採用・教育、経営管理などさまざまな部門があります。

採用時の部門にもよりますが、一般的に事務方で採用される場合以外は、酒造工程を把握する意味でも、新入社員は、酒造りの現場での基本作業からキャリアをスタートさせることが一般的です。

酒蔵にもよりますが、多くの場合、蔵人として、「室子(むろこ)」と呼ばれる麹造りの手伝い、「モト手子、中モト廻り、下モト廻り(酒母係)」と呼ばれる酒母造りの手伝い、「上人(じょうびと)」「中人(ちゅうびと)」という呼称の各種作業の補佐や雑用、「追廻し(おいまわし)=整備係」という呼称の道具の洗浄、「下人(したびと)、飯屋(めしや)」という呼称の蔵人の食事準備など、基本作業を行いながら、酒造りの現場に慣れることを優先させます。

経験を積むと製造工程の一部を任されるように

蔵人として、醸造の各工程から、瓶詰め・包装などの出荷作業まで、各部署の補助について、一通りの経験を積んだ後、「係員」として、製造工程の一部を任されるようになります。

酒蔵の製造部門は、経営者で酒造のプロデュース役の「蔵元」、製造現場のトップで酒造工程の全体を管理する「杜氏」、酒造の各工程を担当する職人集団「蔵人」という構成です。

蔵人の中にも職位があり、製造の各工程の責任者や担当者がいますが、数年かけて各工程の責任者のもとで一定の経験を積み、実績を重ねていくと、職位も上がり、いずれは製造工程の一部を担当する責任者(係員)を任せられるでしょう。

たとえば、精米担当の「搗屋(つきや)=精米係」、蒸米担当の「釜屋(かまや)=蒸米係」、圧搾担当の船頭(せんどう)などです。

蔵人として技術を磨き杜氏を目指すことも可能

蔵人として、杜氏のもとで、実際の酒造りの各工程を担当し、技術を磨き、経験を積み、実績を重ねていくことにより、杜氏を目指すことも可能です。

具体的には、杜氏の補佐役である「頭(かしら)=杜氏補佐」、麹造りの責任者である「麹屋(こうじや)=麹主任」、酒母造りの責任者である「モト師=酒母主任」などの三役を経験し、周囲に認められていけば、杜氏への道も開けるでしょう。

蔵人としての下積みを経て、三役となり、いずれは杜氏という酒蔵における製造部門のキャリアパス以外にも、酒蔵には営業部など非製造部門のキャリアパスも存在します。

たとえば、一般企業のように、課長・部長などの中間管理職を経て、経営管理など幹部としてのキャリアパスがありますが、多くの酒蔵では、非製造部門に進むキャリアパスでも、新入社員当時は、製造部門の基本作業を経験して、酒造工程の全体像を把握できるような経験をするようです。

酒蔵のキャリアと給与の仕組み

酒蔵の給与事情はどのようになっているのでしょうか。

ここでは、酒蔵のキャリアと給与の仕組みについて解説します。

【酒蔵のキャリアと給与の仕組み】

  • 正社員の平均年収は340万円となっている
  • 地域によって給与に差があり、関東が最も高い
  • アルバイト・パートの平均時給は1,098円

正社員の平均年収は340万円となっている

厚生労働省の職業情報提供サイトjobtag「清酒製造」のデータによれば、酒蔵に勤務する従業員の平均年収は、全国平均341.8万円となっています。

なお、一部民間会社の求人統計データ(株式会社カカクコム運営「求人ボックス」)によれば、酒蔵における正社員の平均年収は、439万円です。

もちろん、統計データの集計方法、勤務している酒蔵や正社員の勤務年数や経験、スキルなどによって年収の幅があるものの、国税庁令和5年分民間給与実態統計調査のデータに基づく日本の正社員の平均年収530万円よりは低水準となっています。

地域によって給与に差があり、関東が最も高い

酒蔵の給与には、地域によって差があります。

求人ボックスのデータによれば、酒蔵の給与を地域別で比較すると、関東地方が451万円と一番高い水準です。

関東地方に次いで給与水準が高いのが、中国・四国地方の398万円、続いて近畿地方の390万円、中部・北陸地方の368万円、九州・沖縄地方の366万円となっています。

アルバイト・パートの平均時給は1,098円

一部民間会社の求人統計データ(株式会社カカクコム運営「求人ボックス」)によれば、酒蔵におけるアルバイト・パートの平均時給は1,098円となっています。

酒蔵におけるアルバイト・パートの平均時給に関しても、地域によって差があり、最も高いのが関東地方で1,148円、続いて近畿地方で1,051円、以下、中国・四国地方の1,001円、中部・北陸地方の995円、九州・沖縄地方の966円、北海道・東北地方の931円です。

酒蔵でキャリアを積むために必要な資格やスキル

酒蔵でのキャリアを積むためには、どのような資格やスキルが必要なのでしょうか。

ここでは、酒蔵でキャリアを積むために必要な資格やスキルについて解説します。

【酒蔵でキャリアを積むために必要な資格やスキル】

  • 酒造技能士の資格を取ると杜氏を目指しやすい
  • 日本酒検定があると幅広い知識をアピールできる
  • 食品衛生責任者の資格で品質管理の仕事に強くなれる

酒造技能士の資格を取ると杜氏を目指しやすい

酒蔵でキャリアを積むために必要な資格の1つとして、「酒造技能士」があります。

酒造りに関する資格では唯一の公的資格である「酒造技能士」は、酒造に関する学科及び実技試験に合格し、日本酒造りの分野で専門的な知識や技能を持つと認定された人に与えられる国家資格です。

酒造技能士の資格を取得することで、杜氏を目指しやすくなるでしょう。

なぜなら、酒造技能士の資格保有者として、基礎的な技術や知識を証明でき、酒蔵での信頼も高まるからです。

また、資格取得のための学習や実習を通じて、実践的な経験も積むことも期待できます。

日本酒検定があると幅広い知識をアピールできる

酒蔵でのキャリアを積む上で、「日本酒検定」という資格も有益な資格です。

「日本酒検定」は、日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)が主催する日本酒に関する知識と技術を評価するための民間資格であり、5級から1級までの段階があります(1級が最上位級)。

酒蔵での就業に備えて、日本酒検定の資格を取得しておけば、日本酒に関して幅広い知識をアピールできるでしょう。

食品衛生責任者の資格で品質管理の仕事に強くなれる

「食品衛生責任者」という資格も、酒蔵でのキャリアを積むために必要な資格の1つです。

酒蔵や酒屋など食品を取り扱う施設ごとに、「食品衛生責任者」の設置が義務づけられていますので、「食品衛生責任者」の資格を取得すれば酒蔵で重宝されることが期待できます。

食品衛生責任者の資格を持っていると、品質管理の分野での信頼性が高まります。

特に酒造りにおいては、衛生管理が製品の品質や安全性に直結しますので、「食品衛生責任者」の資格を持っていることは大きなアドバンテージになるでしょう。

発酵プロセスや保存方法など、細かな衛生管理が求められる酒蔵にとって、非常に重要な役割を果たすからです。

「食品衛生責任者」の資格は、各都道府県市の食品衛生協会や保健所で実施されている講習会を受講すれば取得できますので、酒造業への就業を考えているのであれば、事前に取得しておくことも考えておきましょう。

酒蔵でキャリアを積む魅力とやりがい

酒蔵でキャリアを積み重ねる上で、どのような魅力ややりがいがあるのかを事前に把握しておくことは、モチベーションを上げるためにも必要です。

ここでは、酒蔵でキャリアを積む魅力とやりがいについて解説します。

【酒蔵でキャリアを積む魅力とやりがい】

  • 自分が造ったお酒を飲んでもらえる喜びがある
  • 日本の伝統文化を受け継ぐ仕事ができる
  • 米や麹、水から新しい味を生み出せる
  • 酒造りの技術が少しずつ身についていく実感がある

自分が造ったお酒を飲んでもらえる喜びがある

酒蔵でキャリアを積む中で、魅力ややりがいといえば、やはり、「自分が丹精込めて造ったお酒を人々に楽しんでもらえる」といった喜びでしょう。

酒蔵でのキャリアには、技術や知識の習得だけでなく、創造性や感性を生かすことが求められ、それが形となって人々の手に渡り、喜びを与える瞬間は、何よりもやりがいを感じられる瞬間だと思います。

体力面や精神面できつい酒造りの仕事をする中で、飲む人の笑顔を思い浮かべ、蔵人たちと力を合わせ、自然のめぐみや目に見えない微生物の働きを巧みに操りながら、持てる技のすべてを注ぎ込んだ商品でこだわりの強い愛飲家を満足させる喜びこそ、酒蔵で働くことの最大の魅力であり、やりがいです。

酒蔵で積むキャリアの魅力ややりがいは、ものづくりの醍醐味が凝縮された仕事そのものであり、どんなに機械化やIT化が進んでも、本質が変わることはないでしょう。

日本の伝統文化を受け継ぐ仕事ができる

酒蔵でキャリアを積む魅力の1つとして考えられるのが、酒造りという日本の伝統文化を受け継ぐ仕事ができるといったことでしょう。

ユネスコ無形文化遺産へ提案されている「伝統的酒造り」は、日本が海外へ誇る伝統文化であり、酒蔵での仕事は、日本酒づくりという日本の伝統文化を守り伝える重要な職業です。

酒蔵でのキャリアは、何世代にもわたって受け継がれてきた日本固有の酒造りの知識と技術を生かしながら、現代の消費者に日本酒の魅力を伝える伝道師としてのキャリアにも匹敵します。

酒蔵でキャリアを積むことには、古き良き日本文化の担い手として、「自分が日本の伝統文化を受け継ぎ後世に伝えていく」という使命感と自己肯定感を感じさせてくれるといった魅力もあるのです。

米や麹、水から新しい味を生み出せる

日本酒の主な原料は、「米」「麹」「水」の3つです。

米、麹、水というシンプルな素材から無限の可能性を引き出すことができるのが、酒造りの魅力の1つです。

素材の選び方や処理方法、発酵の管理など、細かな工夫と技術が積み重なって独自の味わいが生まれます。

近年、伝統的な技術や知識をベースにして、IoTやデータ分析などの新技術を取り入れ、新たな味わいの酒造りにもチャレンジできる環境を整備する酒蔵も増えているようです。

新たな味わいを生み出し、飲み手に喜びや驚きを与える瞬間は、何ものにも代え難い達成感があることでしょう。

酒造りの技術が少しずつ身についていく実感がある

酒造りは細かな技術や感覚が要求される仕事。

酒造りは2〜3年で極められるわけではなく、数十年といった長いスパン(期間)で、経験や知識を積み重ねながら、技術や感覚を磨いていく必要があります。

蔵人として、日々の造りの仕事を行いながら、ふとした瞬間に、今までうまくできたかったことがうまくできるようになるなど、自己の技術的な成長を感じられる瞬間もあります。

このように、酒蔵でキャリアを積む中で、酒造りの技術が少しずつ身についていく実感があることは、酒蔵での仕事の魅力の1つでしょう。

酒蔵でのキャリアパスのまとめ

ここまで、酒蔵でのキャリアパスについて、一般的なキャリアパスの事例や酒蔵のキャリアと給与の仕組み、必要な資格やスキル、魅力ややりがいなどをご紹介させていただきました。

酒造業に興味があり、これから酒蔵に就業しようと考えているならば、自身の興味やスキルに合わせて、どのようなキャリアパスを描くのか把握する必要があるのでしょう。

同時に、自身に合ったキャリアパスを提示している酒蔵を探すのも、自己実現する上で重要な作業です。

しかし、酒造業界の情報は専門的であり、インターネットで調べても簡単には自身が欲しい情報を得られないかもしれません。

ご安心ください。

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