日本酒の味を決める杜氏とは何をする人?受け継がれる技や伝統を解説
「あの蔵元さんのお酒、最近、味が変わった気がする…」
「そうですねぇ…杜氏(とうじ)が変わりましたからね…」
このように、「杜氏が変われば酒の味も変わる」と言われるほど、酒造りにおいて杜氏の役割と責任は重大です。
「杜氏」という言葉は聞いたことがあっても、実際に「杜氏」がどのような仕事をしているのか、知らない人は多いかもしれません。
今回は 、日本酒の味を決める杜氏とは何をする人なのか、杜氏の伝統や技術、杜氏が日本酒に与える影響などを解説します。
- 1. 日本酒造りの主役ともいえる杜氏とは何をする人?
- 1.1. 酒蔵で日本酒造りの全工程を取り仕切る責任者
- 1.2. 蔵人たちを指揮して美味しい日本酒を生み出す
- 1.3. 蔵元の意向を汲み取り酒質や味わいを決める
- 1.4. 米の選定から貯蔵まで日本酒造りのすべてに関わる
- 2. 日本酒文化を支える杜氏の伝統
- 2.1. 江戸時代からの技と知恵で味を守り続けている
- 2.2. 蔵ごとの秘伝レシピを代々受け継ぎ、独自の味を生み出している
- 2.3. 地域ごとの特色ある技術を継承している
- 3. 日本酒の品質を左右する杜氏の技術
- 3.1. 五感を使って米や水の質を見極める力
- 3.2. 気温や湿度の微妙な変化を感じ取る繊細さ
- 3.3. 麹や酵母の状態を正確に判断する力
- 3.4. 蔵人たちをまとめ上げるリーダーシップ
- 4. 杜氏が日本酒に与える影響
- 4.1. 杜氏の経験と勘が決める日本酒の味わい
- 4.2. 杜氏の技術力で引き出される米の旨味
- 4.3. 酵母の選び方で変わる日本酒の香り
- 4.4. 温度管理の技術で変わる発酵の具合
- 5. まとめ
日本酒造りの主役ともいえる杜氏とは何をする人?
「杜氏が変われば蔵の酒の味わいが変わる」と言われるほど、日本酒造りの主役ともいえる杜氏。
杜氏とは、具体的にどのような仕事をするのでしょうか。
ここでは、日本酒造りの主役ともいえる杜氏とは何をする人かについて解説します。
【日本酒造りの主役ともいえる杜氏とは何をする人?】
- 酒蔵で日本酒造りの全工程を取り仕切る責任者
- 蔵人たちを指揮して美味しい日本酒を生み出す
- 蔵元の意向を汲み取り酒質や味わいを決める
- 米の選定から貯蔵まで日本酒造りのすべてに関わる
酒蔵で日本酒造りの全工程を取り仕切る責任者
杜氏とは、酒蔵の酒造りの現場で、日本酒造りの全工程を取り仕切る最高責任者です。
日本酒造りにはさまざまな工程があり、蔵元の求める味わいのお酒を造るためには、トータルで全工程を取り仕切るリーダーが必要。
杜氏は、蔵元から雇用され、従業員として醸造現場のリーダとなることもあれば、杜氏集団を形成し、蔵元との醸造委託を受けて、醸造現場に入ることもあります。
どちらの形態にしても、杜氏は、醸造現場全体を取り仕切る現場監督として、日本酒造りになくてはならない大切な存在です。
蔵人たちを指揮して美味しい日本酒を生み出す
杜氏は、複雑でデリケートな酒造りの工程を支えるリーダーとして、蔵人(くらびと=杜氏のもとで酒造りに携わる職人のこと)たちを指揮して、美味しい日本酒を生み出します。
杜氏は、杜氏の補佐役である「頭(かしら)」、麹造りの責任者である「麹屋(こうじや)」、酒母の責任者である「モト屋」などの三役をはじめ、担当ごとに役割分担された
蔵人を率いて、日本酒造りを行うのです。
杜氏は、酒造業を営む蔵元に雇われていることが多く、1つの蔵に1人の杜氏と、蔵の規模によって、数人から数十人程度の蔵人を指揮します。
蔵元の意向を汲み取り酒質や味わいを決める
杜氏は、蔵元の意向を汲み取り、酒質や味わいを決めていきます。
杜氏の力量1つで、酒蔵の酒質や味わいが変わるので、蔵元が自分の蔵の銘柄の味わいを追求するためには、杜氏を誰に受けてもらえるかは重要な選択です。
日本酒はさまざまな複雑な工程を経て造られるため、温度や湿度、pH値などの管理から、原料米の選定など、日本酒の酒質に影響を与えるファクターを、杜氏がどのように見極め、酒蔵の醸造現場を仕切るかが酒蔵の銘柄の味わいに大きな影響を及ぼします。
造りの時期ごとに変化する蔵元の意向や酒造りの条件を汲み取り、蔵元の求める酒質や味わいを造り分けることが、杜氏に与えられた使命です。
米の選定から貯蔵まで日本酒造りのすべてに関わる
日本酒造りは、精米からはじまり、洗米・浸漬、蒸米、製麹、仕込み・もろみ、上槽・火入れ、貯蔵、調合精製、瓶詰めまで、実にさまざまな工程から成り立っています。
杜氏の仕事は、日本酒造りの最高責任者として、日本酒造りのすべての工程に関わり、取り仕切ることです。
醸造方法の決定や醸造計画の立案、浸漬時間の見極め、もろみの発酵状態のチェックなど、杜氏が酒造りの各工程を責任をもって管理します。
また、蔵人に関しても、適正を見極めた人員配置やマネジメント、蔵内の管理、原料の扱いなど、日本酒造りのすべてに関わるのが杜氏です。
日本酒文化を支える杜氏の伝統
現在の杜氏や蔵人の制度はどのように成立し、伝統が築かれてきたのでしょうか。
ここでは、日本酒文化を支える杜氏の伝統について解説します。
【日本酒文化を支える杜氏の伝統】
- 江戸時代からの技と知恵で味を守り続けている
- 蔵ごとの秘伝レシピを代々受け継ぎ、独自の味を生み出している
- 地域ごとの特色ある技術を継承している
江戸時代からの技と知恵で味を守り続けている
現在の杜氏や蔵人の制度の起源は、江戸時代以降と言われています。
江戸時代に大量仕込み樽の技法が開発され、幕府の統制などから製法も寒造りに移行したことより、酒蔵で冬場に大量の酒造り要員のニーズが発生しました。
酒蔵では、既存の蔵人だけでは不足していたことから、農閑期の地方の農民が副収入を稼ぐために、酒どころの地域へ杜氏集団(酒造りの技術者集団)を形成し、集団出稼ぎに行ったことが起源です。
杜氏集団は、杜氏がリーダーとなり、数人から数十人の蔵人を率いて、地域の酒蔵へ醸造を請け負う中で、酒造りに関する技と知恵を身につけ、地域の酒蔵の味を守り続けてきたのです。
蔵ごとの秘伝レシピを代々受け継ぎ、独自の味を生み出している
杜氏は、日本酒造りの総責任者として、蔵ごとの秘伝レシピを代々受け継ぎながら、独自の味を生み出してきました。
杜氏の技術と知識が、長い年月をかけて磨かれ、各蔵の個性を反映した日本酒を生み出してきたのです。
蔵ごとの酒造りが途絶えないように、杜氏集団の組織も工夫し、酒蔵が多い地方には、杜氏集団の出先機関を設置して、杜氏を送り込むようにしていました。
さらに、杜氏集団も杜氏組合を設立し、雇用の安定や情報交換を図るなどの工夫も杜氏制度の伝統を守り、蔵の酒造りを継続させることに寄与していたのです。
地域ごとの特色ある技術を継承している
杜氏集団は、出身地域に根ざして発展してきました。
地域ごとに変動する気候や原料の違いに対応しながら、高品質な日本酒を提供するために技法を磨いてきたため、各地域で特色ある技術を継承してきたのです。
各地の杜氏集団ごとに、受け継いでいる技法が異なるので、造られるお酒の味わいもさまざまで、それぞれに特色があります。
特に、「日本三大杜氏」と呼ばれる岩手県の「南部杜氏」、新潟県の「越後杜氏」、兵庫県の「丹波杜氏」などは、独自の伝統と技術を持っており、全国各地の杜氏集団に伝統や技法の点でも大きな影響を及ぼしてきたのです。
日本酒の品質を左右する杜氏の技術
杜氏によって、日本酒の品質が変わると言われていますが、杜氏の技術とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
ここでは、日本酒の品質を左右する杜氏の技術について解説します。
【日本酒の品質を左右する杜氏の技術】
- 五感を使って米や水の質を見極める力
- 気温や湿度の微妙な変化を感じ取る繊細さ
- 麹や酵母の状態を正確に判断する力
- 温度管理の技術で変わる発酵の具合
五感を使って米や水の質を見極める力
杜氏は、視覚、嗅覚、触覚、味覚、聴覚といった五感をフルに使って、米や水の質を見極める力を有しています。
米や水の質が、日本酒の品質や味わいに大きく影響するからです。
たとえば、米の状態を目で見て確認し、香りを嗅いで発酵の進み具合を判断したり、手で触れて米の硬さや水分量を確かめたり、舌で味わって発酵の具合を確認したりします。
また、発酵中の音を聞くことにより、発酵が順調に進んでいるかどうかを判断することもあるのです。
このように、杜氏は、長年の経験と五感をフルに活用することで、蔵元の求める味わいを実現するために最適な米や水の質を見極めます。
また、最近では、杜氏の五感に加えて、デジタルツールを使って発酵度を可視化する技術も導入されており、伝統的な技術と最新の技術が融合する傾向にあることも注目です。
気温や湿度の微妙な変化を感じ取る繊細さ
杜氏の技術として、気温や湿度の微妙な変化を感じ取る繊細さも求められます。
温度計や顕微鏡がなかった時代には、杜氏は、発酵状態の微妙な変化を、香りや味のほか、肌で感じ取る温度変化などで把握していました。
杜氏の技術は、経験と勘に基づくものであり、長い年月をかけて培われたもの。
現代でも、杜氏の技術は非常に重要で、寒造りでは、気温や湿度の管理が酒の品質に大きく影響します。
杜氏の繊細な感覚と経験が、日本酒の美味しさを支えているのです。
麹や酵母の状態を正確に判断する力
杜氏の技術として、麹や酵母の状態を正確に判断する力も必要です。
麹の状態を判断するためには、視覚、触覚、嗅覚を駆使します。
麹の色や質感、香りを細かくチェックし、最適な状態に保つことが求められ、酵母の状態も同様に、発酵の進行具合や香りを確認しながら、温度や湿度を微調整していくのです。
麹や酵母の状態を正確に判断して、麹や酵母の状態に基づき、杜氏の長年の経験に基づく勘により、日本酒の品質を均一に保持していきます。
蔵人たちをまとめ上げるリーダーシップ
杜氏には、酒造りの技術だけでなく、蔵人たちをまとめ上げるリーダーシップも必要です。
杜氏は、蔵人たちをまとめ上げるリーダーとしての役割も担い、蔵人たちの仕事を調整し、効率的に作業を進めるための指示を出します。
また、杜氏には、蔵人たちとの円滑なコミュニケーションも求められます。
チームとして、蔵元が求める味わいの日本酒を造るには、信頼関係を築き、チーム全体の士気を高めることが重要です。
杜氏の醸造チームの最高責任者としてのリーダーシップは、人間関係やチームの運営にも大きく関わってきます。
杜氏が日本酒に与える影響
杜氏は日本酒にどのような影響を与えるのでしょうか。
ここでは、杜氏が日本酒に与える影響について解説します。
【杜氏が日本酒に与える影響】
- 杜氏の経験と勘が決める日本酒の味わい
- 杜氏の技術力で引き出される米の旨味
- 酵母の選び方で変わる日本酒の香り
- 蔵人たちをまとめ上げるリーダーシップ
杜氏の経験と勘が決める日本酒の味わい
杜氏の経験と勘は、日本酒の味わいを大きく左右します。
杜氏の仕事は、酒造りの現場で最高責任者として、米の選定、精米、発酵、搾りなどのあらゆる工程の統率です。
たとえば、酒米の硬さや溶けやすさを見極め、最適な精米歩合や浸水時間を決定するのは、長年の経験がなせる技です。
また、発酵の進み具合や温度管理など、微妙な調整が必要な場面では、杜氏の勘が重要です。
これらの判断は、数値データだけではなく、杜氏の感覚や経験に基づいて行われます。
最近では、デジタルツールを活用して発酵度を可視化し、杜氏の経験と勘をサポートする取り組みも進み、品質の安定化や効率化が図られていますが、やはり杜氏の経験と勘が日本酒の味わいを決定する重要な要素であることに変わりはありません。
杜氏の経験と勘が、日本酒の味わいを決めると言ってもいいでしょう。
杜氏の技術力で引き出される米の旨味
杜氏の技術力は、日本酒の品質に大きな影響を与えます。
品質のいい日本酒は、米の旨味をいかに引き出すかにかかっているのです。
杜氏は、米の旨味を最大限に引き出すために、精密な温度管理や発酵のプロセスを駆使します。
たとえば、米を蒸す温度や湿度、麹菌の繁殖具合などを細かく調整しながら、最適な状態を保つのです。
また、能登杜氏のような伝統的な技術を持つ杜氏は、地元の良質な水と米を使い、独自の技術でコクのある日本酒を醸し出します。
杜氏の技術と経験が、米の旨味を引き出し、豊かな風味を持つ日本酒を生み出すのです。
酵母の選び方で変わる日本酒の香り
日本酒の香りは、使用する酵母の種類によって大きく変わります。
酵母は発酵過程でアルコールを生成するだけでなく、香りの成分も生み出すのです。
酢酸イソアミル(バナナや洋梨のような爽やかな香り)やカプロン酸エチル(リンゴやメロンのようなフルーティーな香り)の成分の割合によって、日本酒の香りや風味が異なります。
また、酵母の種類も多岐にわたり、それぞれが異なる香りを生み出すことも押さえておきましょう。
たとえば、「協会7号酵母」は、華やかな香りが特徴で、吟醸酒に多く使われます。
一方、「協会9号酵母」は、フルーティーな香りが強く、酸味が少ないため、低温発酵に適した酵母です。
杜氏は、蔵元に求められる酒質や味わいに近づけるために、酵母の種類や特性を理解して、適正な酵母を選択するのです。
温度管理の技術で変わる発酵の具合
日本酒づくりにおいて、温度管理は発酵の具合を大きく左右する重要な要素です。
もろみの発酵温度を適切に管理することで、酒の品質が決まります。
杜氏は、酒造りの各工程で温度を細かく調整し、最適な発酵環境を維持していくのです。
たとえば、麹菌の繁殖には適切な温度と湿度が必要なため、麹菌を蒸した米に振りかけた後、季節や気候によっても細やかな調整をしつつ、温度や水分量を管理しながら繁殖させます。
また、もろみの発酵過程でも温度管理が重要です。
発酵温度が高すぎると酵母が活発になりすぎてしまい、逆に低すぎると発酵が進まなくなります。
杜氏は、アルコール度数や日本酒度に合うように温度を微調整し、麹や米の溶け具合、見た目や香りを考慮しながら酵母の状態を見極めるのです。
杜氏は、長年の経験と勘にプラスして、最近では、IoT技術の活用も含めて、徹底した温度管理と微細な調整を行い、品質の高い日本酒を生み出しています。
まとめ
ここまで、日本酒の味を決める杜氏とは何をする人なのか、杜氏の伝統や技術、杜氏が日本酒に与える影響などをご紹介させていただきました。
日本酒造りの現場を指揮する責任者であり、日本酒の味わいを左右する非常に重要な役割を担っているのが「杜氏」です。
杜氏は酒造りの全工程を管理し、蔵人たちをまとめて高品質な日本酒を作り出します。
杜氏は、高度な技術と経験を持ち、酒造りの全工程において繊細な調整を行い、温度や湿度の微妙な変化に対応しながら、発酵の管理に最適な環境を維持するのです。
近年では、杜氏の高齢化や後継者不足が課題となっていますが、新しい世代の杜氏が伝統を受け継ぎつつ、革新的な酒造りにも挑戦している事例も見られます。
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