仕事を任せることで、人は育つ!上手な「権限委譲」とは!?

※2022年7月6日更新

酒蔵の経営において、杜氏や蔵人など酒造りの担い手の確保が経営課題の1つであることは間違いないでしょう。

人を育成をするときに、昔の軍人の山本五十六の言葉が広く知られています。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば人は動かじ。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。」

仕事を任せることで、人は育つと言われています。
あなたの蔵では、若い社員に仕事を任せていますか?

人材育成をする上で、「権限委譲」というキーワードがあることをご存じでしょうか。

「権限委譲」とは仕事を任せること。

今回は、「権限委譲」について、メリットや効果的なやり方まで詳しく解説します。

権限委譲ってなに?

「権限委譲」とは、ビジネスで上司やリーダーが部下やメンバーに意思決定の権限と責任を与えることです。つまり、上の者が下の者に仕事を任せること。
英語では「エンパワーメント(enpowerment)」といいます。エンパワーメントとは、人が本来持っている能力を引き出し、自信や力を与えること、「権限委譲」「能力開花」などの意味があるんです。

酒蔵のケースでは、「社長が社員に」「杜氏が蔵人に」「先輩社員が後輩社員に」など仕事を任せて、本人の裁量で仕事をさせるのが「権限委譲」。

このとき、任せた業務につき、メンバーの裁量で仕事を進めさせ、結果責任は任せたリーダーが負うということが前提となっていることを押さえておきましょう。

そもそも、「権限委譲」は、組織のマネジメントの必要性から発現したものです。1人のマネージャーが管理できる人数は6~7人が限界であると言われており、チームが大きくなっていくとチームを複数に分ける必要が出てきます。そうなると、マネージャーが1人ではすべてのチームを管理できなくなるので、各チームに中間管理的なマネージャーを配置し、権限を一部委譲するというのがもともとの考え方です。

どうして権限委譲が重要なの?

「俺がちゃちゃっとやったほうが早いし、うまくいくのに…」
「なんで人にわざわざ任せる必要があるの?」

仕事ができる人なら、誰しもこんな風に思うかもしれません。

権限委譲にはどのような目的があるのでしょうか。

権限委譲には、2つの目的があると言われています。

1つは「社員の成長・育成・能力開発」、もう1つは「組織における生産性の向上」です。

以下、順に解説します。

社員の成長を促進する

権限委譲の目的の1つに「社員の成長の促進」があります。
山本五十六の言葉にあるように、「任せてやらねば、人は育たず」ということです。酒蔵における酒造りの担い手である人材不足解消のためには、若手社員の育成が不可欠となっています。

指示された業務をこなすだけでは「指示待ち人間」が育成されるだけ。自主性・自律性を兼ね備えた人材を育成するためには、権限委譲を行い、自身で考え試行錯誤を繰り返しながら仕事をこなす体験をさせなければならないんです。

社員に成長の機会を与えることこそ、権限委譲の最大の目的であることを常に念頭に置いておきましょう。

組織における生産性を上げる

権限委譲には、「組織における生産性の向上」という目的もあります。
近時、働き方改革などにより、限られた時間内で高い能力を発揮する「生産性」を上げることが、どの組織においても急務であることは間違いないでしょう。

社員が権限委譲を通じて成長すれば、組織全体の生産性の向上が期待でき、業績アップにつながるということがわかっており、権限委譲は有効なマネジメント手法として注目されているのです。

権限委譲のメリットって?

「権限委譲って、どんなメリットがあるの?」

権限委譲のメリットに関しては、覚悟を持って仕事を任せる社長やリーダーからしたら気になるところでしょう。

そこで、権限委譲のメリットについてご紹介します。

「権限委譲って、チャンスを与えられるメンバーにはメリットあるけど、結局仕事を任せるほうは進捗管理に時間や手間がかかるだけで、何かいいことあるの?」と思っていませんか?

実は、権限委譲は、部下だけでなく、社長や組織にもメリットがあるんです。

ここでは、権限委譲の部下のメリット、社長・組織のメリットを解説します。

部下にとってのメリット

権限委譲は、仕事を任せられるメンバーにとって以下のようなメリットがあります。

・自身が成長できる
・主体性・自律性が芽生える
・モチベーションがアップする

任せられた仕事を通じて、経験を積み知識を得て、自身の能力開発につなげられたり、失敗しても次回成功するためにはどうしたらよいかを考えたりして成長することができます。また、自身の裁量で仕事をするということは、自ら考え行動しなければならないので、主体性や自律性が引き出され、仕事に関する問題意識や責任感が増します。さらに、自分の裁量で仕事を行うようになると、当事者意識が芽生え、仕事が楽しくなり、やる気も湧き出てくるのです。

もう1点重要なことは、「自分は権限を与えられ、任された仕事をやり抜く力がある」という「心理的エンパワーメント」により、客観的な権限委譲のメリットに加えてさらに力を発揮することができる相乗効果が期待できるということです。

社長・組織にとってのメリット

権限委譲において、仕事を任せる側の上司にとってのメリットは以下のようなことが考えられます。

・時間的余裕が生まれ、より重要な案件に注力できる
・部下の教育研修を通じてマネジメント能力がアップする

社長や上司は、メンバーに仕事を任せることで時間的余裕が生まれます。そして、空いた時間をより重要な案件の仕事に費やせるのです。

また、適切なフィードバックなどを行うことで、メンバーを教育研修する機会も増え、自身のマネジメント能力も上がり、評価を受ければ出世も期待できます。

他方、組織にとっても権限委譲は以下のようなメリットがあります。

・個々のスキルがアップすることでチーム力が底上げできる
・各人が現場で判断できるためチーム全体の意思決定のスピードが向上する
・管理者候補が増える
・組織全体としての生産性が向上して市場競争力が維持・強化される

チームのメンバー各人のスキルや経験値が上がることで、チーム全体の能力がアップします。また、メンバー各人が現場で判断できるので、チームとしての意思決定のスピードが格段に上がります。

さらに、主体性のあるメンバーが育成されることで管理者候補を増やすこともでき、管理者不足も解消するでしょう。加えて、各人がスキルアップできるので、組織全体としての生産性が向上して、市場競争力の維持・強化に直結するというメリットもあります。

なぜ権限委譲できないのか?

権限委譲にメリットがあることはわかりました。しかし、うまく仕事を任せられない人もいます。特に、仕事ができる人ほど、仕事を任せるのが苦手というのはよく聞く話でしょう。

ホームラン王だった優秀な野球選手が引退し、すぐに監督になったものの、すぐにチームを優勝に導けるとは限らない、これと同じなのです。

では、なぜ、権限委譲がうまくできないのでしょうか。

権限委譲がうまくできない人の特徴として次のようなことが考えられます。

・時間がない人
・自分の仕事のやり方が絶対だと思っている人
・リスクを負いたくない人
・プライドが高い人
・仕事ができない人の気持ちがわからない人
・人材を育成する意識が薄い人
・組織全体のことが見えていない人

「自分でやったほうが早いし確実なんだよなぁ…」
「説明してる時間がもったいないよ…」
「どの仕事を任せればいいんだろう…」
「俺の仕事のやり方なんか真似できないだろうなぁ…」
「部下の仕事の責任を負うのはいやだなぁ…」
「この仕事は俺しかできない!」
「任せると進捗がわからなくなるからなぁ…」
「逆に部下の管理で面倒くさくなるなぁ…」
「あいつがうまくいったら俺の立場が…」
「なんでこんなこともできないんだろう…」
「思うような成果も期待できないし…」
「部下を育てると俺になんかいいことあるのかなぁ…」
「俺が動いたほうが組織のためだよなぁ…」

こんな勘違いをしている人、周りにいませんか?

1つでも当てはまることがあったら、権限委譲がうまくいかない可能性がありますので、気をつけるようにしましょう。

こんな権限委譲はダメ!

権限委譲をするときにやってはいけないこともあります。

ここでは、権限委譲の失敗事例から、権限委譲でやってはいけないことを学んでいきましょう。

こんな権限委譲はダメ①目的がはっきりしていない

権限委譲の目的は、部下に成長の機会を与えて成長の促進を図ることです。単なる仕事のフォローをしてもらうために、ベテラン社員に権限委譲するなど、育成目的の観点から外れている目的のはっきりしていない権限委譲は避けたほうがよいでしょう。

育成目的であることを明確にして、権限委譲する際に、部下にしっかりと目的を伝えましょう。

こんな権限委譲はダメ②丸投げ&放置

権限委譲の失敗事例で多いのが、仕事を丸投げして放置しているパターンです。権限委譲では、権限を分け与えて本人の裁量で仕事を任せますが、プロセス途中での適度な確認は必要になります。あまり口出ししすぎるのはいいことではありませんが、それと「丸投げや放置」とは異なります。

丸投げや放置をした結果、部下も上司に相談できず、仕事が失敗したことに後になって気づくという最悪の事態を招いてしまうのです。

丸投げや放置はせず、適度な確認と部下からの相談しやすい雰囲気作りも必要でしょう。

こんな権限委譲はダメ③急ぎ&ミスが許されない

権限委譲する仕事選びを間違えている失敗事例も見られます。たとえば、急ぎの仕事やミスの許されない仕事を権限委譲してしまうパターンです。

権限委譲する仕事を選択する際には、「その仕事を部下がこなせるのか」「失敗しても後からフォローできるのか」などの点に着目して選ぶようにしましょう。

こんな権限委譲はダメ④任せたのに口を出す&責める

権限委譲は、権限を与え、本人の裁量で仕事を任せ、結果の責任は権限を与えた上司が負うという構図です。部下の裁量で仕事をさせることにより、主体性や自律性を引き出し成長の促進を図ります。

しかし、任せたのにもかかわらず、ついつい口を出したり、少しでも仕事のやり方が気にくわないと部下を責めたりしてしまう上司もいます。そのようなやり方では権限委譲の目的は達成できないばかりか、上司としての信頼を失うことにもなりかねません。

権限委譲後は、部下を信じて、なるべく口を出したり、責めたりするようなことは避けましょう。

権限委譲ってどうやればいいの?

「権限委譲って具体的にどうやればいいの?」

権限委譲や仕事の教え方に関して、自信の持てない社長やリーダーもいるかもしれません。

実は、権限委譲を行う際には、「指導するぞ!」ではなく「支援しよう!」と思うぐらいがいいのです。

権限委譲は具体的に次のようなステップで行うとよいでしょう。

1.委譲できる仕事と委譲できない仕事を選別する
2.知識・経験・スキル・目標を考慮して適任な部下を選定する
3.権限委譲の目的やメリットを明確にして部下に伝え理解を得る
4.本人の意向を確認する
5.部下が仕事をこなせる環境や情報を整備する
6.仕事の内容・期限や必要な指示を行い権限委譲する
7.プロセスの途中で適度な確認やフォローを行う
8.仕事の完了に伴い一緒に振り返りを行う
9.仕事の結果責任は上司が負う

委譲できる仕事は「定型業務」「部下が経験してきた仕事に近いもの」「ゴールとプロセスが明瞭な業務」「成長が期待できそうな業務」などです。

他方、委譲できない仕事は「緊急性の高い仕事」「失敗が許されない仕事」「マネージャークラスが行うべき業務」「チーム全体の目標設定」「不確実な要素がある仕事」「リスクが大きい仕事」「機密性の高い仕事」などでしょう。

権限委譲で重要なことは、委譲できる仕事や適任者を選択する際に、部下の総合的な力量を考え、どの程度の権限委譲をすべきかを的確に判断することです。この判断を誤ると、権限委譲の目的を達成することができなくなるので、慎重に行いましょう。

権限委譲する適任者が決まったら、上司と部下でコミュニケーションをしっかりとり、目的やメリットを納得してもらった上で権限委譲を行いましょう。その際に、組織としての目標も共有しておくことが望ましいですね。

権限委譲する際には、部下が仕事をこなせる環境(共通ルールや基準など)・情報を整備した上で、コンプライアンス上で絶対NGなことなど明確な指示出しが必要です。必要であれば指示書などを書面で渡すことなど工夫してみるのもよいでしょう。定期的な進捗報告と合わせて、タイミングよく、褒めたり感謝したりポジティブな声かけとフィードバックなどを行うと、部下のモチベーションも上がり成長も期待できます。

権限委譲の仕事が完了したら、上司と部下で「振り返り」を行うことで、部下の成長を図りましょう。仕事の成果に関しては部下を褒め、悪い結果が出たとしても、部下を責めたりせず、しっかりと上司が責任を負うようにします。

権限委譲のプロセスの途中では、必要以上に干渉せず、部下の育成目的であることを常に意識するようにしましょう。

権限委譲の4ステップ

権限委譲を行うときに意識したいのが、権限委譲の順番です。これは、権限委譲の効果的なやり方に関係するので押さえておきましょう。

権限委譲には、以下の4つのステップがあり、ステップが進むほど、高度な自由度の高い権限委譲となってきます。

1.行動を指定して権限委譲する
2.結果だけを求めて権限委譲する
3.計画を出させて権限委譲する
4.組織文化・理念を守って権限委譲する

権限委譲のファーストステップは、行動を1から10まで決めて権限委譲する形式です。
委譲される側の仕事の自由度はほとんどありません。任せた仕事は滞りなく進むでしょうが、マニュアル人間が完成してしまいます。任せる相手が新人などの場合に利用しましょう。

権限委譲のセカンドステップは、結果やゴールだけを示して権限委譲するパターン。
求める結果さえ実現できれば、どんなやり方でもいいというスタイルです。自由度はかなり高くなります。ただし、きちんとファーストステップを踏んでからセカンドステップに進まないと、ただの無茶ぶりになってしまうので要注意です。

また、セカンドステップで注意すべきもう1つの点は、全体最適を考えて行動するように指導すること。全体最適を考えず結果ばかりを求めてしまうと、競争を招くだけになってしまうからです。

そのためには、サードステップの計画を提出させて権限委譲を行うことが効果的になってきます。
経営トップが各チームの計画を見て、全体最適を図った上で、各チームにフィードバックする形式です。

そして、いよいよ最終的には、組織の文化や理念を守った上で、権限委譲するパターンになります。
全体最適や計画性・協調性を失わずに権限委譲できることが最終的に目指すべき権限委譲の形態です。

ステップバイステップで権限委譲の形態を変化させていくことが大切になってきます。

まとめ

今回は、酒蔵において人材を育成するために重要な「権限委譲」について解説させていただきました。

人を育てるのは、どの業界でも難しいこと。しかし、いい組織を作って、酒造りを継続させていくためには、どうしても必要なことでしょう。

「任せるのって大変だよね…」
「自分でやっちゃったほうが楽なんだけどなぁ…」
「任せたいけど時間がないからなぁ…」
「なんでできないんだろう…」

こんなお悩みをお持ちの方は、お気軽にアンカーマンまでご相談ください。

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