ビジネスデューデリジェンス(DD)とは?役割や目的、調査の流れをわかりやすく解説

最近では、後継者不足の問題などから酒蔵のM&Aが増えています。

酒蔵のM&Aでは、酒造業以外の企業が酒蔵を買収するケースも多く、酒造業の知識や経験が少ないために、M&A後に「思っていた効果が得られなかった」というケースも耳にします。

このような後悔をしないためには、M&Aのプロセスの中で、ビジネスデューデリジェンスが必要です。

今回は、ビジネスデューデリジェンスに関して、役割や目的、調査の流れなどをわかりやすく解説していきましょう。

ビジネスデューデリジェンスとは

デューデリジェンス( Due Diligence、略「DD」)とは、M&Aのプロセスの中で行う買収側企業の対象企業に対する企業価値やリスクを洗い出す調査のことです。

DDの中でも、ビジネスモデルや事業の将来性やシナジー効果といった対象企業の「事業」に関して行うDDを、ビジネスデューデリジェンス(Business Due Diligence、略「ビジネスDD」)といいます。

ビジネスデューデリジェンスの役割や目的

ここでは、ビジネスデューデリジェンスの役割や目的について解説します。

【ビジネスデューデリジェンスの役割・目的】

  • 買収する企業のビジネスモデルを把握する
  • 事業の将来性や課題を把握する
  • バリュエーションの妥当性を評価する

それぞれについて見ていきましょう。

買収する企業のビジネスモデルを把握する

ビジネスデューデリジェンスの役割の1つとして、買収する企業のビジネスモデルや収益構造を把握することが挙げられます。

M&Aを行う上で、買収対象企業の事業構造・組織体制などの内部環境の調査、競合他社や業界動向などの外部環境の把握などを行った上で、M&A実施後に、現状の取引先との取引が継続するか、売上が見込みどおりに積み上がっていくかなどを判断しなければなりません。

事業の将来性や課題を把握する

ビジネスデューデリジェンスを実施する意味として、買収対象企業の事業の将来性や課題を把握するということもあります。

M&A実施後に、取り組まなければならない課題を明確にした上で、現状の事業とのシナジー効果があるか、今後企業価値が向上するのかなどを把握しておく必要があるからです。

バリュエーションの妥当性を評価する

バリュエーション(valuation)とは、M&Aにおける買収対象企業の利益や資産などの「企業価値評価」のこと。

M&Aの買収対象企業との条件交渉において、売り側より提示されたバリュエーションの妥当性をビジネスデューデリジェンスによって評価するという目的があります。

バリュエーションの妥当性を評価するためには、ビジネスモデルや収益構造を把握した上で、事業の将来性や課題、現状の事業とのシナジー効果などを総合的に勘案して判断していく必要があるでしょう。

ビジネスデューデリジェンスの種類

ビジネスデューデリジェンスには、「コマーシャルデューデリジェンス」と「オペレーショナルデューデリジェンス」という2つの種類があります。

【ビジネスデューデリジェンスの種類】

  • コマーシャルデューデリジェンス
  • オペレーショナルデューデリジェンス

それぞれのDDの特徴や内容について見ていきましょう。

コマーシャルデューデリジェンス

コマーシャルデューデリジェンスとは、買収対象企業の「事業」そのものについて評価する工程です。

買収対象企業の「事業」の市場性を洗い出し、M&A実施後のポテンシャルやリスクを把握するために行います。

具体的には、買収対象企業の企業自身や事業そのものの市場の状況、競合他社の有無、顧客動向などを分析し、事業の強み・弱み、機会や脅威、事業の将来性、市場における現状のポジションや持続性、商品サービスの展開は顧客ニーズを捉えているかなどを把握するための調査です。

オペレーショナルデューデリジェンス

オペレーショナルデューデリジェンスとは、買収対象企業の「オペレーション」をチェックする工程です。

買収対象企業の生産工程や業務フローといった事業の進め方に関して分析することによって、M&A実施後に業務がスムーズに行えるかを調査します。

具体的には、買収対象企業の戦略や業務フローをM&Aで承継した後、事業の拡大・縮小ができるか、製造工程における稼働率・効率性はどうか、設備や人材に追加投資が必要かなどをポテンシャルやリスクも含めて分析するのがオペレーショナルデューデリジェンスです。

ビジネス以外のデューデリジェンスの種類

デューデリジェンスには、ビジネスデューデリジェンス以外にも、さまざまなデューデリジェンスの種類があります。

ここでは、以下のようなビジネス以外のデューデリジェンスの種類についてご紹介しましょう。

【ビジネス以外のデューデリジェンスの種類】

  • 税務デューデリジェンス
  • 法務デューデリジェンス
  • 人事デューデリジェンス
  • ITデューデリジェンス
  • 財務デューデリジェンス

以下、順に解説します。

税務デューデリジェンス

税務デューデリジェンスとは、買収対象企業の法人税や消費税などの税務に関する調査です。

具体的には、買収対象企業の税務申告の正確性や納税状況などを調査して、追徴課税の可能性の有無、繰越欠損金の発生状況などを確認して、税務リスクの有無などを分析します。

法務デューデリジェンス

法務デューデリジェンスとは、買収対象企業の法務に関する調査を行い、法務リスクの有無などを分析します。

具体的には、各種取引の契約内容を調査し、法令違反や係属中の訴訟の有無、今後トラブルや訴訟に発展するリスクなどを把握するのが法務デューデリジェンスの目的です。

人事デューデリジェンス

人事デューデリジェンスとは、買収対象企業の人事に関する調査です。

具体的には、買収対象企業にどのような人材がいるか、M&A実施後の人事に関する待遇はどのようになるのかなど労働契約の承継等に関する分析を行います。

ITデューデリジェンス

ITデューデリジェンスとは、買収対象企業のシステム関係などITに関する調査です。

具体的には、買収対象企業の既存の管理システムなどを分析し、M&A実施後のシステム統合などどのように行うのかといったことの分析を行います。

財務デューデリジェンス

財務デューデリジェンスとは、買収対象企業の財務に関する調査を行い、事業計画の妥当性やM&A実施後の必要資金などを把握する目的で実施します。

具体的には、買収対象企業の業績や収益性、負債や簿外債務の有無など財務に関するあらゆる部分の分析です。

ビジネスデューデリジェンスの流れ

ビジネスデューデリジェンスをどのような手続きを行うのか、ここではビジネスデューデリジェンスの流れについて解説します。

【ビジネスデューデリジェンスの流れ】

  • 売り手からの資料の開示
  • 市場環境や競争環境の分析
  • 買収によるシナジー効果やリスクの分析
  • 資料からは読みとれない情報のヒアリング

それぞれについて見ていきましょう。

売り手からの資料の開示

ビジネスデューデリジェンスは、売り手からの資料の開示でスタートします。

開示する資料のリクエストは、買収側から一覧表等を提出して行うのが一般的です。第一段階で、各種DDに必要な資料の開示を受け、DDが進み、必要に応じて追加資料をリクエストします。

具体的な資料としては、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書、中長期事業計画書、事業計画の算出根拠などです。

情報漏洩を避けるために、秘密保持契約を締結することは必須となります。

市場環境や競争環境の分析

売り手から開示された資料に関して、まずは、市場環境や競争環境といった買収対象企業の外部環境および内部環境の分析からスタートします。

買収対象企業を取り巻く外部環境に関しては、買収側の取組によって変えることができないため、ビジネスDDによりしっかりと分析することが重要です。

内部環境分析においては、買収対象企業が有する強みや商品・サービスの優位性を分析して把握します。

買収によるシナジー効果やリスクの分析

外部環境および内部環境の分析が完了したら、買収によるシナジー効果やリスクの分析を行います。

シナジー効果の分析に関しては、各項目を抽出して定量化と実現可能性の把握に努めることが必要です。

リスク分析に関しては、さまざまな面からリスク項目を洗い出し、脅威の度合いと対策に関して検討しておきましょう。

資料からは読みとれない情報のヒアリング

売り手から開示された資料だけでは読みとれない情報があるでしょう。経営理念や事業上のノウハウなどもそのうちの1つです。そのようなケースでは、買収対象企業の経営陣や実務の担当者から情報をヒアリングすることが必要です。

ヒアリングに関しては、トラブル防止の観点から、ヒアリング相手の同意を得た上で録音したり、議事録を作成したりする必要があります。

事業計画の修正

ビジネスデューデリジェンスを行い、シナジー効果の定量化・実現可能性が評価できた段階で、買収側によるM&A実施後の事業計画に修正を加えて、バリエーションに反映していきましょう。

ビジネスデューデリジェンスを実施する以前の事業計画は、買収対象企業の評価と分析を行う前のものなので、ビジネスデューデリジェンスにより買収対象企業の詳細な分析が完了した段階で、事業計画の修正を行うことが必要不可欠です。

ただし、バリエーションの反映に関しては、シナジー効果による事業計画の改善効果を含めないように注意しましょう。シナジーが発揮されなかった場合には、事業計画の改善がなされない可能性があるからです。

最終チェックと実行判断

ビジネスデューデリジェンスの最終段階として、最終チェックを行い、M&Aを実行するかどうかの判断をします。

M&A実行の判断に関しては、シビアに行うことが重要です。ここで時間と労力をかけてきたのだから、なんとかM&Aを実行するという前提ではなく、あくまで客観的にビジネスデューデリジェンスの分析結果に基づいて経営判断を行うよう努めましょう。

できれば、外部専門家やコンサルタントと連携して、第三者の客観的な意見も参考にした上で、冷静な判断をすることをおすすめします。

ビジネスデューデリジェンスの分析で役立つフレームワーク

ビジネスデューデリジェンスでは、自社でコントロールできない外部環境要因の分析と、自社でコントロールできる内部環境要因の分析を行うことになります。

ビジネスデューデリジェンスを実施する際には、それぞれの分析に適した既存のフレームワーク(分析手法)を使うことが一般的です。

ここでは、ビジネスデューデリジェンスの分析で役立つフレームワークについてご紹介します。

ビジネスデューデリジェンスの分析で役立つフレームワークは、以下のとおりです。

【ビジネスデューデリジェンスの分析で役立つフレームワーク】

外部環境要因の分析内部環境要因の分析
SWOT分析
PEST分析×
5フォース分析×
VRIO分析×
バリューチェーン分析×

以下、順に解説します。

SWOT分析

SWOT分析とは、内部環境である「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」、外部環境である「Opportunity(機会)」「脅威(Threat)」の4要素を分析する手法です。

外部環境要因も内部環境要因もどちらも分析することが可能で、比較的わかりやすく汎用性もあるため活用しやすい分析手法です。

SWOT分析を行うには、事業そのもの、事業環境、社会や顧客の動向などの客観的事実の整理が必要となります。

PEST分析

PEST分析とは、外部環境要因の分析を行う際に用いる手法で、買収対象企業が属する市場に影響を及ぼす「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」といった4つの要因における「機会」と「脅威」を洗い出し、分析していく手法です。

特に、PEST分析は、広い視点で分析するため、マクロ環境の分析に適しています。さらにPEST分析は、脅威を予測できるので、マーケティング戦略や政策の方向性を明確化したり、市場の将来性や変化を予測したりといった目的で実施されることが多い手法です。

5フォース分析

5フォース分析も、外部環境要因の分析を行う際に用いる手法の1つです。

買収対象企業がさらされている脅威(フォース)を「新規参入」「競合」「代替品」「供給者」「購入者」の5つに分類し、それぞれを分析することで、買収対象企業に及ぼす影響を把握します。

VRIO分析

VRIO分析は、買収対象企業の内部環境要因の分析を行う際に役立つ手法の1つです。

買収対象企業の経営資源に注目し、「経済価値(Value)」「希少性(Rarity)」「模倣可能性(Inimitability)」「組織(Organization)」に分けて分析することで、強み・弱みや商品・サービスの優位性を把握することができます。

バリューチェーン分析

バリューチェーン分析も、買収対象企業の内部環境要因の分析を行う際に用いられます。

買収対象企業の商品製造のための原材料調達から市場での流通・販売までの一連の流れを「価値の連鎖(Value Chain)」として考え、事業の工程ごとに分析することで、各部門の役割や貢献度、ビジネス全体の流れを把握できる手法です。

ビジネスデューデリジェンスを成功させるポイント

ここでは、ビジネスデューデリジェンスを成功させる下記のポイントについて解説します。

【ビジネスデューデリジェンスを成功させるポイント】

  • 専門家と協力して進める
  • 調査項目に優先順位をつける
  • 情報を厳重に管理する

以下、順に解説します。

専門家と協力して進める

ビジネスデューデリジェンスを成功させるためには、専門家と協力して進めることが不可欠です。

買収対象企業の事業分野における知識とは別に、外部環境に関する的確で客観的な分析、M&Aに関する幅広い知見や専門的知識・経験などが総合的に必要になってくるからにほかなりません。

特に、酒蔵のM&Aを行う際のビジネスデューデリジェンスには、酒造業という特殊な業界の幅広い知見や専門的知見や経験が必要です。

M&A実施後の事業戦略や事業計画の策定に関してもM&A成功のポイントになってくるでしょう。ビジネスデューデリジェンスの段階で事業の将来性も含めて冷静な判断を行うためには専門家との協力が欠かせません。

調査項目に優先順位をつける

ビジネスデューデリジェンスを行うために重要な点の1つとして、調査項目に優先順位をつけることが挙げられます。

なぜなら、ビジネスのあらゆる側面においてデューデリジェンスを行うことは時間や費用に関しても現実的ではないからです。

調査項目に優先順位をつけ、調査項目を絞り込むことで、調査も効果的になり、かつ深掘りしていくことができます。

調査項目に優先順位をつけるためにも、外部コンサルタントなど専門家との連携が不可欠です。

情報を厳重に管理する

情報を厳重に管理することも、ビジネスデューデリジェンスを成功させるポイントの1つです。

外部に情報が漏れてしまうと、買収対象企業の事業に影響を及ぼしてしまうリスクがあるだけでなく、M&A自体が流れてしまうケースもあります。

売り手側、買い手側で秘密保持契約を締結し、情報漏れの際の責任の所在を明確にすることも情報漏れの抑止力となるでしょう。

ビジネスデューデリジェンスのコンサルティングを依頼するメリット

ビジネスデューデリジェンスのコンサルティングを依頼するメリットには、次のようなことが挙げられます。

【ビジネスデューデリジェンスのコンサルティングを依頼するメリット】

  • 正確かつ客観的なビジネスデューデリジェンスが可能
  • 業界に精通した知見・経験とM&Aに関する専門的な知識によるDDが可能
  • M&A実施後の事業計画・事業戦略についても相談が可能

ビジネスデューデリジェンスのコンサルティングを依頼する最大のメリットは、業界特有の特徴や環境をはじめとした外部環境分析、さらには買収対象企業の内部環境分析などに関して、業界に精通した知見や経験、M&Aに関する専門的な知識により、正確かつ客観的なビジネスデューデリジェンスが可能だということです。

さらに、ビジネスデューデリジェンスの段階で、M&A実施後の事業計画や事業戦略を意識したビジネスデューデリジェンスを実施することができ、買収側からするとM&Aの最終判断において適正な第三者意見が得られます。

コストや時間、労力を無駄にしないためにも、M&A実施の際には、ビジネスデューデリジェンスのコンサルティングを依頼することを検討してみましょう。

まとめ

ここまで、酒蔵のM&Aを行う際のビジネスデューデリジェンスに関して、役割や目的、調査の流れなどをご紹介させていただきました。

M&Aを行う際に各種DDを行いますが、その中でもビジネスDDがいかに重要であるかがおわかりいただけたのではないでしょうか。

M&Aのプロセスの中で行う買収側企業の対象企業に対する企業価値やリスクを洗い出し、バリュエーションの妥当性を評価するだけでなく、M&Aを実行するかどうかの最終判断をする際の指標となるのがビジネスDDです。

M&Aを成功させられるかどうかは、正確なビジネスDDができるかどうかにかかっていると言っても過言ではありません。

それだけ重要なビジネスDDを成功させるには、経験豊富で信頼の置けるパートナーを選ぶことが重要です。

アンカーマンでは、酒造業・酒販業に特化したコンサルティングファームとして数多くの酒類事業者に対するビジネスサポートを実施してきた経験から、酒蔵のM&AにおけるビジネスDDサービスも提供しています。

酒蔵のM&AにおけるビジネスDDをご要望の方は、お気軽にアンカーまでご連絡ください。

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