梅酒に学ぶ!『安酒勝負からの撤退』という選択肢

お酒を取り巻く歴史を顧みれば…

「造れば造るだけ売れた」戦後の高度経済成長期を経て、国民の食生活の変化とともに、料理とのペアリング酒が日本酒から洋酒へと変化。

消費者の「酒離れ(アルコール離れ)」を背景として、日本酒全体の消費の長期低迷の中、「お酒はこれからどうなるのか?」という不安を抱いている蔵元さんも多いはず。

大手製造メーカーと同じ土俵で戦う「安酒勝負」を続けていて、蔵の将来はどうなるのか?
過度な価格競争から脱却する方法はあるのか?

今回は、酒蔵は、マーケティング戦略を突き詰めれば、安酒勝負から撤退できるのかということを深掘りしていきましょう。

日本酒はどこへ向かうべきか?

酒蔵として、日本酒を「誰に」「どのようにして」販売していくのか、「マーケティング戦略」の方向性を決定する上で、指針が必要です。

指針を作る上で、「日本酒はどこへ向かうべきなのか?」について考えていきましょう。

なぜ日本酒は安いのか?

そもそも、なぜ日本酒は安いのでしょうか?
それには、さまざまな事柄が関係していますが、1つは、昔からずっと「日本酒の価格設定」が「精米歩合」など原価から決定され、「スペック」で値段決めされているからです。

本来、「スペック」と「おいしさ」は比例せず、「おいしさ」と「価格」は比例するもの。なのに、「スペック」と「価格」が比例してしまっている現状があります。

また、ワインの場合、希少価値が高ければオークション等で値段が高騰し、生産者の価格設定の目安に反映されます。これは、ニーズに見合った価格設定であり、ごく当たり前の市場原理です。

しかし、日本酒の場合、「スペックに見合った価格設定」が生産者に根付いてしまっているため、このようなニーズに見合った市場原理が働いていないのが現状です。

伝統を守ることは大切ですが、伝統を守りながらも、新たな価値観を生み出していくことも必要なことではないでしょうか。

さらに、価格設定の原因は、清酒をめぐる流通システムの沿革にも関係しています。
酒類流通は、小売免許の規制緩和、量販店の参入、卸売業者の戦略などによって、販売チャネルの転換、オープン流通と限定流通の並存により、「価格競争の波」と「一部商品の高級化の波」とに2極化されました。

具体例を挙げるならば、地域の蔵元さんと同スペックの銘柄に対し、同等の価格をつけてきた、というのはよく聞くエピソードです。人件費などが上昇し、1本あたりの原価が上がっているのにも関わらず、「企業努力で値上げをせずに頑張ってきた。地元の蔵はみんな、ずっと価格据え置きだから、うちだけ値上げするわけにはいかない」などの事情です。
「一部商品の高級化の波」は、そういった限定流通システムの限界も関係して、一般化されず、日本酒全体の価格アップにはつながっていないのです。

日本酒の2つの行く末

「酒類市場の規模縮小」「酒類の消費低迷」という現状で、多くの蔵元さんが、日本酒のニーズ回復の困難さに直面しているものと思われます。

日本酒の進むべき道として現行路線を進むのか?行く末を見直すのか?
今、日本酒業界は、大きな岐路に立たされているのではないでしょうか?

梅酒の歴史に学ぶこと

日本酒の2つの行く末を判断する上で、参考になる事例があります。それは、「梅酒の歴史」です。

ここでは、梅酒の歴史や、梅酒の歴史から学ぶことについて解説します。

梅酒の歴史

そもそも、梅は中国が原産地であり、弥生時代に日本に伝来したと言われ、農家で栽培され、梅干しや梅酒などの保存食・家庭薬として重宝されていました。

焼酎などの蒸留酒に青梅と砂糖を漬け込んだ「梅酒」を商品化したパイオニア企業は、言わずと知れた「チョーヤ梅酒株式会社(以下、『チョーヤ梅酒』と呼びます)」です。

チョーヤ梅酒は当初、日本産ぶどう酒の醸造で一定の成功を収めていたものの、いち早く外国産ワインが日本で主流になることを感じ、日本にしかできないアルコールとして、「梅酒の商品化」に切り替えました。

しかし、大きな壁がありました。
「梅酒は家で作るもの」「原価がわかっているのに儲からない」というレッテルを貼られ、売れない日々が長年にわたり続いたのです。しかし、チョーヤは諦めず、多額の広告宣伝費を投じ、イメージ戦略を謀っていったのです。結果として、一時、梅酒シェア100%にまで伸びました。

その後、大手メーカーが追随し、安かろう悪かろうの商品を投入してきた(価格差は倍)こともあり、チョーヤ梅酒のシェアは3割にまで落ち込んでしまいました。

そのときも、チョーヤ梅酒は「高品質・高価格路線」を貫き、苦節20年にして、現在のような成功を収めたのでした。

梅酒の歴史から学ぶこと~チョーヤ梅酒はなぜ成功できたのか?

チョーヤ梅酒の成功の要因の1つは、「梅酒は家庭で作れるからニーズがない」というレッテルに屈しなかったことでしょう。

「だったら、家で作れる漬物は商品になっていないのか?」
「家庭菜園が流行ったとき、八百屋さんが店を閉じたのか?」
「DIYの流行は建設業界にどれほどの影響を及ぼしたのか?」
などなど、例を挙げればキリがないほどですよね…

さらに、チョーヤ梅酒は、マーケティング戦略によって、未だない市場を作り上げたことでも評価されるべきでしょう。
チョーヤ梅酒は、新たなマーケティング戦略により、「梅酒」の持つ古くささを払拭するため、「食前酒」としてのイメージを市場に浸透させたのです。購買層のターゲットを女性(30〜40代の主婦や20代の女性)に絞り込み、「ペリーラ」や「ウメッシュ」などの商品を市場に投入したのです。

さらにさらに、消費者の健康志向ブームや多様化するニーズに合わせて、甘さを控えた「さらりとした梅酒」、ノンアルコール飲料の「酔わないウメッシュ」などを発売しました。刻々と変化する消費者ニーズに素早く合わせるマーケティング手法で今も成功を収めています。

マーケティング戦略でここまでできることなど、日本酒の酒蔵も、梅酒の歴史に学ぶことは多いようです。

安酒勝負からの勇気ある撤退を!

行き過ぎたお酒の価格競争をしていると、次のようなデメリットが発生します。

安酒勝負のデメリット

  1. ファン(リピーター)を作れない
    価格の安さを重視する人ほど、特定の店には定着せず、いろいろな店に行く傾向があります。短期的な売上は作れても、ファンを作ることはできません。
  2. 大手製造メーカーが有利
    価格競争は、体力勝負の消耗戦なので、経営資源が豊富で、幅広い商品を取り扱う大手製造メーカーが有利です。
  3. 優位性がない
    真似されやすく、持続的競争優位性がないので、一時、価格で優位に立っても、すぐに反撃されるリスクが常にあります。
  4. 勝ち負けがハッキリする
    お酒の値段は消費者がお酒を購入する際に比べやすい指標なので、優劣がはっきりして、負け組が多くなります。
  5. 安売りの時しかお客さんが来なくなる
    安売りを続けると、消費者が価格を重視して、安売りの時しかお酒を買わなくなることもあります。
  6. 価格が上げられなくなる
    安売りを継続することで、いざ高付加価値のお酒を販売しても、消費者が価格以外に目が向かず、「高い」と思って買ってくれなくなります。

以上のようなデメリットを引き起こさないためにも、安酒勝負からの勇気ある撤退をおすすめします。

安酒勝負をしなくてすむ方法

酒蔵のマーケティング戦略としては、「いかに安く売るか」ではなく、「いかに安く売らずにすむか」を考えるべきです。

安酒勝負をしなくてすむ方法を考えましょう。

安酒勝負を回避するポイント

安酒勝負を回避するためには、次のようなポイントを意識することが大切です。

  • 消費者がお酒に求める品質(知覚品質)を高める
  • 蔵や商品のブランド力を高める
  • 販売力を磨く
  • 商品の独自性を高める
  • 価格以外のコスト部分などを見直す
  • 消費者に喜ばれる情報提供や提案を行う

安酒勝負を回避する具体的な方法

安酒勝負を回避する方法の具体例は以下のとおりです。

ポイントと具体的な方法

  1. 知覚品質の向上
    消費者がお酒を選ぶ際に、自身の蔵のお酒と競合蔵のお酒を比べるときに知覚できる品質や優位性(価格・味わい・おいしさ・風味・容量・瓶ラベルなど)を地道に向上させる取組み(ブランディングや広告宣伝、試飲会の実施など)を積極的・継続的に行いましょう。
  2. ブランディング
    時間がかかっても「本物のファン」を作るためにインターネットやSNSなどを活用して広告宣伝していき、リブランディング(選ばれる「一本」「蔵」としてブランドの再構築)を行いましょう。
  3. 販売力強化
    販売力を磨くことはブランディングセールスにおいて最重要課題です。
  4. 商品の独自性強化
    あらゆるアイデアを取り込み、消費者のニーズを反映した代替品の少ない商品を提供していくことに努めましょう。
  5. コスト見直し
    価格以外のコスト部分を見直し、無駄な経費の大幅なカットへの取組み、販売管理費の最適化などにより、経費削減の効果で余った資金をもとに、醸造危機設備の導入に回し、生産性の向上を図るなどの工夫も大切です。
  6. 情報提供・提案
    消費者ニーズが顕在化している場合には、消費者ニーズを把握して、ニーズ対応しましょう。また、潜在化している消費者ニーズに対しては、情報提供や提案などを行い、ニーズを喚起させることも重要です。

まとめ

ここまで、「酒蔵は、マーケティング戦略を突き詰めれば、安酒勝負から撤退できるのか」ということについて考察させていただきました。

今後、蔵の将来を考えたときに、日本酒の酒蔵も、大手と同じ土俵(安かろう悪かろうの土俵)で勝負していてはダメでしょう。

おいしいお酒の提供だけでなく、情報提供・提案・アドバイスなどによって、消費者をリードしていくことが重要です。

アンカーマンは、日本で唯一、酒造業に特化した補助金サポート、経営サポート、リブランディングの3本の柱で、酒蔵さんを縁の下の力持ちとして支える伴走者(アンカーマン)になります。

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