ゾンビ免許とは?通信販売で利用される目的や取得方法、免許の違いによる問題点を解説
通称「ゾンビ免許」と呼ばれる酒類免許のことをご存じでしょうか。
俗称こそ「ゾンビ免許」ですが、この「ゾンビ免許」の酒類業界における意味合いやインパクトは、まったく「ゾンビ」ではありません。
今回は、この「ゾンビ免許」に関して、通信販売で利用される目的や取得方法、免許の違いによる問題点などを解説します。
ゾンビ免許とは
ここでは、「ゾンビ免許」とはどういうものか、定義や現行免許との違いなどについて解説します。
通称「ゾンビ免許」とは、現行の酒類小売業免許が制定された1989年6月以前に交付された「旧酒類小売業免許」のこと。
「旧酒類小売業免許」は、店頭でも通信販売でも無制限にすべての酒類を取り扱うことが可能です。
つまり、免許の交付時期の違いによって、合法的にすべてができる「レア免許」のことを「ゾンビ免許」といいます。
なぜ、「ゾンビ免許」が注目されているのかといえば、合法的にすべてができる「レア免許」であること、保持し続けるための条件が複雑なため、「ゾンビ免許」に希少価値があることなどの理由からです。
Amazonなどの大手ECサイト事業者が、ゾンビ免許を持っている事業者を買収して、無制限に大手メーカーの国産酒を通信販売できるという状態になったことから注目されるようになりました。
ゾンビ免許と現行免許との違い
「ゾンビ免許」と現行免許の違いは以下のとおりです。
【ゾンビ免許と現行免許の違い】
免許区分 | 店頭販売 | 通信販売 | |
1つの都道府県内 | 2以上の都道府県内 | ||
一般酒類小売販売業免許 | すべての酒類○ | すべての酒類○ | × |
通信販売酒類小売業免許 | × | 「3000kl未満のメーカーの酒類」「輸入酒」○ | 「3000kl未満のメーカーの酒類」「輸入酒」○ |
両方の免許を取得 | すべての酒類○ | すべての酒類○ | 「3000kl未満のメーカーの酒類」「輸入酒」○ |
ゾンビ免許 | すべての酒類○ | すべての酒類○ | すべての酒類○ |
「ゾンビ免許」と現行免許の端的な違いは、免許の交付時期ですが、現行の免許と違い、店頭販売、通信販売どちらにおいても、無制限にすべての酒類の販売が可能だということです。
現行免許では、たとえば、全国規模で大手メーカーのお酒を通販する場合、新たに通信販売酒類小売業免許を取得したとしても、販売できるお酒には制限が設けられます。
ただし、「一般酒類小売販売業免許」の取得者が、免許を受けた店舗と同一の都道府県内の消費者にお酒を通信販売する場合は、例外としてすべての酒類を販売することが可能です。
酒類の購入者が自宅に持ち帰るには品物が重いため、配達を認めないと、一般消費者の利便性を著しく欠いてしまうので、距離的に近い同一県内であれば「一般酒類小売販売業免許」の範囲内で通信販売を認めますというのが制度趣旨となります。
「ゾンビ免許」に近い免許形態にするためには、「一般酒類小売販売業免許」と「通信販売酒類小売業免許」の両方を取得する方法となりますが、両方の免許を取得したとしても、2以上の都道府県内に通信販売するケースでは制約ができてしまうので、完全に同じような効果を得るには、全国すべての都道府県で「一般酒類小売販売業免許」を取得するしかないでしょう。
ゾンビ免許が通信販売で利用される目的や法的な背景
ゾンビ免許がなぜ通信販売で利用されるのか、目的や法的な背景について解説していきましょう。
ゾンビ免許が通信販売で利用される目的
ゾンビ免許が通信販売で利用される目的としては、大手酒造メ-カー酒類を含めて、無制限にすべての酒類を通信販売できるレア免許のゾンビ免許を取得したいからです。
現行で新規事業者が、真正面から正規申請して、「通信販売酒類小売業免許」を取得したとしても、通信販売できるのは、「3,000kl未満のメーカーの酒類」と「輸入酒」のみ。取り扱える酒類に制限がかかってしまいます。
しかし、1989年6月以前に取得された免許には、「一般」や「通販」の区別がなく、店頭でも通信販売でも、合法的にすべての酒類を売ることができるのです。
したがって、全国にすべての酒類を通信販売したい事業者は、全国すべての都道府県で酒販免許を取得するよりも、ゾンビ免許を活用する道を選択するのでしょう。
現行の酒販免許を取り巻く法的な背景
1938年(昭和13年)に開始した酒類販売業の免許制度は、旧酒税法(1940年)、酒税法(1953年)の制定を経て、1989年(平成元年)6月に、酒類小売規制の緩和、通信販売酒類小売業免許の新設に伴い、酒類販売業免許の区分として「一般酒類小売業免許」「通信販売酒類小売業免許」が制定されました。
現行の酒販免許では、お酒をネットで売る(複数の都道府県を対象にした通信販売)ための要件として、「通信販売酒類小売業免許」の取得が必要です。
店舗での対面販売に関しては、届出済みの酒類について無制限での販売が可能ですが、通信販売においては、「年間3000kl以上国内販売しているメーカーの酒類は通信販売不可」という制約があります。これは、酒蔵全体の上位数%の大手商品を通信販売できないということ。
このような規制が、なぜ通信販売に設けられているかといえば、「地場の中小メーカーの保護」を目的としているからです。
通信販売は、店舗小売よりも広範な地域を対象とする事業。知名度や広告予算が豊富な大手商品が全国あらゆる地域に出回ってしまえば、地場中小メーカーが打撃を受けてしまう。これを未然に防ごうということが制度趣旨と考えられています。
「ゾンビ免許」は、この通信販売の制約が課されない「旧小売業免許」なのです。
ゾンビ免許の取得方法
実質的「無制限」の免許である「ゾンビ免許」を新たに取得することは、現行ではできません。
では、「ゾンビ免許」はどうすれば取得できるのでしょうか。
ここでは、ゾンビ免許の取得方法について解説します。
ゾンビ免許の取得方法はM&A
ゾンビ免許は、1989年(昭和64年)以前に交付された「酒類小売業免許」(旧小売業免許)。この「旧小売業免許」を保有しているのは、個人事業者または法人。
このうち、個人事業者が保有している「旧小売業免許」は、相続以外では承継できません。
また、法人が保有している「旧小売業免許」だけを譲渡することもできません。
したがって、唯一、ゾンビ免許を第三者が取得できる方法といえば、法人が保有している「旧小売業免許」を法人ごとM&Aして譲り受ける方法しかないということになります。
ゾンビ免許の取得は簡単ではない
ゾンビ免許の取得方法は、旧小売業免許を有する法人をM&Aにより取得することだということはご理解いただけたと思います。
「なんだ…そうなんだ!では、うちもそうしよう!」と思っているそこのあなた。ゾンビ免許の取得は、口で言うほど簡単なものではありません。
まず、旧小売業免許を有する法人がなかなか見つかりません。事業を廃止するなど、実質的に手放してくれるオーナーを探すのは一苦労だからです。
仮に、見つかったとしても、ただ法人の経営者を変更すればいいというだけでなく、前オーナーの資産等の切り離しを含めた法人のM&Aの手続き、前オーナーが酒販事業を継続させたいということであれば、新会社を設立して新規酒販免許の取得など、さまざまな調整が必要だからです。
法務・税務・労務・会計等あらゆる専門家がチームを組んで、M&Aの手続きを行う必要があるでしょう。
Amazonがゾンビ免許を取得した経緯
Amazonがどのようにゾンビ免許を取得したのか、その経緯がメディア記事等で公表されています。
それらの記事によれば、Amazonは埼玉県のとある団地の中にあった昭和から酒販事業を営む老舗の酒屋の免許を法人ごと買い取ったそうです。
現行では、大手ビールなども含め、すべての酒類を全国に通信販売したいのであれば、Amazonのように古い免許の取得者を探して、それを活用するしかないのです。
ゾンビ免許を探す道を選んだAmazonも、条件に当てはまる事業者を自力で探すことはできず、老舗の食品卸大手事業者に依頼してM&Aを成立させたとのこと。
ちなみに、セブン&アイ・ホールディングスは、グループ傘下のイトーヨーカ堂(1968年開業)が保有していたゾンビ免許を活用しているそうです。
ゾンビ免許の問題点
ここでは、ゾンビ免許の問題点について考えていきましょう。
ゾンビ免許の問題点は、次のとおりです。
【ゾンビ免許の問題点】
- 公平な競争力が働かない
- 免許の正規申請で損する環境は健全ではない
以下、順に解説します。
公平な競争力が働かない
「ゾンビ免許」の問題点の1つに、「ゾンビ免許」の存在により、保有している事業者と保有していない事業者の間に、不利な競争条件が生じてしまい、公平な競争力が働かないといったことがあります。
たとえば、日本酒、ワイン、ビールなど取り扱う酒類の商品ラインナップが幅広い酒販店では、EC販売において、「ゾンビ免許」を保有していなければ、販売地域や取扱い商品が限定されるなど、大きく不利な競争条件になり、公平な競争ができなくなるといった事態が生じてしまうからです。
免許の正規申請で損する環境は健全ではない
セブンやAmazonのように、合法とはいえ現行制度の「抜け道」的な策で規制なく商品を販売できる一部企業に対して、真面目に免許の正規申請した新規事業者の事業範囲に制限がかかってしまうのは、健全な環境とはいえないことが問題です。
現行の通販免許の制度趣旨である「大手企業の酒類を制限することにより、地場中小メーカーを保護する」ということであるのに、「ゾンビ免許」があるために、制度趣旨に反して一部大手流通企業の抜け道を許す結果となり、地場中小メーカーを保護できないのであれば、「現行の酒類免許制度の欠陥」ということを言われてもしかたないことでしょう。
まとめ
ここまで、「ゾンビ免許」に関して、通信販売で利用される目的や取得方法、免許の違いによる問題点などをご紹介させていただきました。
法律の抜け穴的手法である「ゾンビ免許」が未だに注目されている理由は、現行の酒類販売業免許に欠陥があるからと言われています。
もちろん、酒類販売業を営んでおられる事業者の方、これから酒類販売業に進出したいと検討されている方にとっても、免許制度に合わせて事業を考えていくことも必要ですが、「誰に対して」「どんなお酒を」「どんな方法で」「どれくらい売りたいか」を事業計画に盛り込み、マーケティング戦略を練ることが重要です。
アンカーマンでは、現在、酒類販売業を営んでおられる方や、これから酒類販売業に進出される方に対して、日本で唯一、酒類事業に特化したコンサルティングファームとして、事業資金に関する補助金サポート、売れる仕組みづくりに関するマーケティングサポート、選ばれるブランドづくりのためのリブランディングサポートなどをご提供しています。
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